研究課題/領域番号 |
23K06518
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研究機関 | 長崎大学 |
研究代表者 |
徳舛 富由樹 長崎大学, 熱帯医学研究所, 教授 (60733475)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | マラリア / リン脂質 / 脂質代謝 / コンディショナルノックアウト / リピドミクス |
研究実績の概要 |
本年度は複数のリン脂質合成経路にかかわる酵素を標的として、3つのコンディショナルノックアウト株(酵素名は独自に命名)を作成した。一つはlysophophatidic acidからphosphatidic acidを作成するAGPAT2、Glycerol-3-phosphateからlysophosphatidic acidを合成するGPAT1、そしてDiacylglycerolからTriacylglycerolを合成するDGATである。この3酵素はすべて必須アミノ酸と考えられているため、Rapamycinでノックアウトを誘導したところ、AGPAT2とGPAT1で48時間以内に、そしてDGATは4日目以降に死滅が確認できた。DGATにおける死滅の遅延は、脂質貯留元となるTAGを再利用し枯渇してから死ぬタイムラグを示していると思われる。 AGPAT2欠損で迅速に死滅する原因を調べるため、トランスクリプトームを調べたところ、細胞分裂や脂質代謝関連の遺伝子発現の低下が確認された。同時に質量分析によりリン脂質プロファイルがノックアウト株で変化し、多価不飽和脂肪酸を含むリン脂質が低下していることが明らかとなった。また原虫細胞の大きな嵌入構造が確認され、構造異常と代謝異常が死滅の原因と思われる。 DGATに関しては、細胞内油滴量の減少と生殖母体への分化が阻害され、AGPAT2とは全く異なるメカニズムに関与していることが分かった。一方、GPAT1欠損も早い影響が出ると同時に生殖母体の構造に異常が見られた。これらのデータより、リン脂質代謝の各段階が感染細胞の様々な恒常性の維持に重要な役割をしていることが明らかとなった。AGPAT2に関してはBioarchiveに発表済みであり、現在投稿中である(doi: https://doi.org/10.1101/2024.01.13.575495)
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
計画している研究対象酵素群のうち、予備実験の効果もあって、3つの酵素に関してコンディショナルノックアウトの作成と、基本的な増殖への影響と性分化における重要性を見ることができた。
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今後の研究の推進方策 |
AGPAT2に関しては、論文の査読結果に応じて追加実験を行い、原虫が死滅する原因の更なる詳細解析を進めると同時に、ラマン顕微鏡をはじめ生物物理学的アプローチにより、各膜間の脂質プロファイルの違いを見ていく予定である。 GPAT1は現在欠損によりどのように原虫が死滅しているのかが不明なため、細胞生物学的にその原因の究明を行う。 DGATは性分化の初期段階に影響するデータが得られているため、分化を制御する転写因子等に焦点をあて、分化コミットメントの機序にDGATがどのようにかかわっているかを解析する。これには、Real-time PCRの準備を進めており、DGATによる制御が転写因子による分化制御の上流か下流かが判明する。また電子顕微鏡観察により感染細胞の構造的異常の有無を確認する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は、本計画以外の個人プロジェクトと同時進行したこと、研究室に備蓄されていた培養関連の消耗品が利用できたため、コスト削減が可能となった。繰り越し分に関しては次年度以降、オミックス外注など高価な解析に利用する。また培養スケールを大きくすることが可能となったため、より詳細な解析に利用する計画である。
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