研究課題/領域番号 |
23K06526
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研究機関 | 埼玉大学 |
研究代表者 |
大塚 裕一 埼玉大学, 理工学研究科, 准教授 (10548861)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 大腸菌 / ファージ / 抗ファージ機構 / AbpA-AbpB |
研究実績の概要 |
本課題の目的は、大腸菌の新規因子群 AbpAとAbpB (以下、AbpAB)による抗ファージ機構が新規であることを明確にし、AbpABが形質導入や形質転換、接合を抑える因子として機能するかを検証するものである。その成果は、薬剤耐性遺伝子の水平伝播により拡大する薬剤耐性菌の蔓延を抑える対策に繋がることが期待される。本年度は4つの研究計画のうち、以下の3つの計画に取り組んだ。 計画①「ファージ感染によるAbpABの活性化機構を明らかにする」では、AbpABがファージの一本鎖DNA結合タンパク質の発現により活性化すること明らかにした。また、ファージ感染なしの条件において、DNA複製やDNA修復の阻害によりAbpABが活性化することも明らかにした。AbpABはある特定のDNA-タンパク質複合体を感知して活性化することが示唆される。 計画②「AbpAとAbpBの作用機序を明らかにする」では、AlphaFold2とDali-serverを用いて、AbpAとAbpBの立体構造を予測した。AbpAはCap4ヌクレアーゼドメインと高い類似性を示した。変異解析によりAbpAのヌクレアーゼ活性が抗ファージ作用に必要であることが示唆された。AbpBはDEAD-box RNAヘリカーゼファミリーに属するヒトRNAヘリカーゼDbp5と高い類似性を示した。また、AbpABの抗ファージ作用にはAbpBのRNAヘリカーゼ活性が必要であることが示唆された。現在、両タンパク質の活性を生化学的に調べるために発現と精製に取り組んでいる。 計画③「形質導入に対するAbpABの抑制作用を明らかにする」では、AbpABの発現により、溶原ファージSp5の誘発と溶原化が抑制されることを明らかにした。過去の結果と合わせて、AbpABは溶菌ファージだけでなく溶原ファージの増殖も抑制することがわかった。よって、ファージによる形質導入を抑制することを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本課題は4つの研究計画からなるが、これまでに計画①「ファージ感染によるAbpABの活性化機構を明らかにする」、計画②「AbpAとAbpBの作用機序を明らかにする」、計画③「形質導入に対するAbpABの抑制作用を明らかにする」を実施した。計画①では、AbpABの活性化に必要な条件を明らかにできたが、その分子機構の解明にはまだ至っていない。計画②では、立体構造予測から、抗ファージ作用に必要なAbpAとAbpBの活性を明らかにした。現在、活性を証明するために、精製タンパク質の調整を行っている。計画③では、AbpABが形質導入を抑制することを明らかにし、予定していた実験は終了した。以上の研究成果は、今年度論文として発表した。よって、本研究課題はかなり進展していると判断する。
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今後の研究の推進方策 |
計画①では、AbpABの活性化の分子機構を解明する実験に取り組む。また計画②ではAbpAとAbpBの発現と精製を行い、生化学的な解析を行う。また、埼玉大学の藤城貴史准教授と共同で、クライオ電子顕微鏡によるAbpAB複合体の構造解析を実施する予定である。さらに、計画④「形質転換と接合に対するAbpABの抑制作用を明らかにする」についても実験を開始する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
「理由」研究活動以外の学内業務などに時間を取られたため、計画通りに実験を実施できなかった。また、参加予定であった海外学会に参加できなかった。以上が次年度使用額を生じさせた理由である。 「使用計画」実験の遂行に必要な機器、器具、試薬の購入に使用する予定である。また、国内の学会や研究会への参加費、論文発表のための費用(英文校正費と論文掲載費)として使用する。
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