研究課題
白癬菌は、水虫を引き起こすカビで、ヒト表在組織に適応することで、世界人口の1割以上に感染しています。健常なヒト表在組織に感染する白癬菌の環境適応機構は異質なものです。本研究課題では、白癬菌の機能未知プロテインキナーゼの機能解析を起点に、白癬菌のユニークな環境適応の分子機構を解明し、白癬菌がどのようにヒト表在組織に適応するかの解明を目指します。さらに、低分子化合物による阻害剤開発が比較的容易というプロテインキナーゼを標的とした治療法開発基盤の確立を目指します。これまでに白癬菌の機能未知プロテインキナーゼを欠失した株を5つ作出し、それらを含むプロテインキナーゼの機能解析を目指し研究を進めています。これまでに遺伝子を欠失させることで特に増殖が遅くなったOSK1タンパク質についてTetON発現系を用いた条件発現株の作出をおこないました。得られた株は、発現抑制状態では菌糸成長が抑制されていた一方で、発現を促進する環境では増殖が回復していました。さらにこのプロテインキナーゼはHAタグを融合させてあり、タンパク質が細胞内に局在していることを抗体を用いて検出することに成功しました。また、欠損によりテルビナフィンに感受性になるプロテインキナーゼは、系統樹解析および表現系解析を基に出芽酵母のPtk2タンパク質の相同因子であると推測され、実際、出芽酵母のPtk2欠損株もテルビナフィン感受性が観察されました。Ptk2はプロトンポンプPma1の活性を正に制御していることが酵母で報告されていたため、プトトンポンプをPtk2欠損白癬菌に過剰発現させたところテルビナフィンに対する耐性が回復しました。Ptk2-Pma1経路の阻害がテルビナフィン耐性を抑制すると考え、プロトンポンプ阻害剤オメプラゾールとテルビナフィンを併用したところ、テルビナフィン感受性および耐性白癬菌に対し単剤より高い効果が確認されました。
2: おおむね順調に進展している
① 白癬菌特異的プロテインキナーゼ(PK)欠損株のライブラリー作製とその生理的機能の解明については、欠損して増殖が遅くなったOSK1の条件発現株の作出に成功し、表現系の確認を進めることができた。プロテインキナーゼ欠損株ライブラリーの作製については順次行なっているが、Trichophyton rubrumのゲノムアノテーション精度が低いため、いくつかのタンパク質で開始コドンや終始コドンの位置が間違っている。また、そもそもorfが予測できていない遺伝子も存在している。そのため、正確な機能未知プロテインキナーゼの数と1次構造を得るため、再解析が必要になる可能性がある。② 白癬菌特異的PKが構築するタンパク質リン酸化ネットワーク解析については、表現系の見られたOSK1およびPtk2の細胞内局在の情報が順調に集まったほか、基質候補分子との遺伝学的な相互作用解析も行うことができた。③ 白癬菌特異的PKを標的とした創薬基盤構築については、大腸菌で発現させたOSK1タンパク質のプロテインキナーゼ活性の測定を目指したが、今のところ活性は捉えられていない。上記のとおり、研究計画にあった3点について概ね順調に進展している。
今後は、①については、プロテインキナーゼ欠損株ライブラリーの構築を引き続き行う。ただし、本年度行なっている中で、ライブラリーの作製に必要なorf情報についてin silicoでの再解析が必要になると判断しているため、その点を検討する。また、得られている欠損株の表現系解析は継続して続ける。②については、表現系のあったプロテインキナーゼについて相互作用因子やリン酸化基質の同定を目指す。また、キナーゼ活性の表現系への必要性を検討するため、点変異体を作出し、親株と表現系を比較する。③については、大腸菌での発現させる際にキナーゼ活性が失われているかを検討するため、点変異型キナーゼを作出し自己リン酸化が抑制されるか検討する。また、別の宿主を使った組み換え発現や、白癬菌にHAタグなどを付与したOSK1を過剰発現させ、キナーゼ活性を有するかを検討する。
一部消耗品の使用が今年度に持ち越されたため、845円の次年度使用額が生じたが概ね計画通りに進んでいる。
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Antimicrobial Agents and Chemotherapy
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10.1128/aac.01609-23
Microbiology Spectrum
巻: 11 ページ: e02923
10.1128/spectrum.02923-23
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