研究課題/領域番号 |
23K06548
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研究機関 | 杏林大学 |
研究代表者 |
須藤 直樹 杏林大学, 医学部, 講師 (50736105)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 腸管出血性大腸菌 / 志賀毒素 / 小分子RNA / バクテリオファージ |
研究実績の概要 |
本研究課題は腸管出血性大腸菌(EHEC)の染色体上に溶原化している志賀毒素遺伝子を保持するファージ(Stxファージ)の生活環における、Stxファージゲノムにコードされる小分子RNA(Sakai prophage-encoded small RNA: Sp-sRNA)の役割の解明を試みるものである。本研究で用いるO157:H7 Sakai株(O157株)は2種類のStxファージを保持し、以前の報告(Tree, J. J., 2014)によると12種類のSp-sRNAを保持する。2023年度は、(A)Sp-sRNAの発現解析、(B)Sp-sRNA遺伝子の欠失株の構築とその溶菌における表現型の解析を行なった。 (A)O157株はマイトマイシンC(MMC)を培地中に添加するとStxファージ領域の遺伝子発現が活性化し(溶菌サイクル)、最終的に溶菌する。ファージ領域にコードされるSp-sRNAは溶菌サイクル時に発現が上昇することが予想されるため、MMC添加時のSp-sRNAの発現をノーザンブロッティングにより解析した。その結果、12種類のSp-sRNAのうち10種類の発現が確認され、そのうち9種類はMMCによる発現誘導が見られた。MMCにより発現が誘導されるSp-sRNAは溶菌に影響する可能性がある。 (B)MMCにより発現が誘導されるSp-sRNA 9種類のうち、多コピーあるSp-sRNA以外のSp-sRNA遺伝子の欠失株を構築した。これら欠失株のMMC添加時の溶菌の状態を濁度の計測により解析した結果、2種類のStxファージのどちらにもコードされるSp-sRNAの欠失時に溶菌し始めるタイミングが野生株と比べ早くなった。さらにプラスミドにより欠失したSp-sRNAを相補すると溶菌のタイミングが野生株と同じになった。これらの結果は、このSp-sRNAが溶菌に関与することを強く示唆する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2023年度に行う予定であった、各Sp-sRNAの発現解析、各Sp-sRNA遺伝子の欠失株とマルチコピー株の構築、及びそれらの株の溶菌における表現型の解析のうち、マルチコピー株の構築とその解析ができていないため。これは、当初の予定より解析するSp-sRNAを増やしたことにより、欠失株の作成に時間を要したためである。
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今後の研究の推進方策 |
2024年度は、2023年度に行う予定であった各Sp-sRNA遺伝子のマルチコピー株の構築とその溶菌における表現型の解析を行う。これらの解析から溶菌への影響がみられるSp-sRNAに関して、再度、欠失株を用いた解析を2023年度より詳細に行うとともにトランスクリプトームを得ることで遺伝子発現全体への影響を解析する。また欠失により影響が見られたSp-sRNAに関してもトランスクリプトームを得て、さらにMAPS(MS2-affinity Purification Coupled with RNA Sequenceing)を用いてそのSp-sRNAと相互作用するmRNAの網羅的解析を行う。トランスクリプトームで得られる遺伝子発現の変動の結果とMAPSの結果の相関解析を行うことで、そのSp-sRNAの標的mRNAとそれによって変動する遺伝子群の同定を目指す。さらにStxファージの溶原菌を用いた解析を行い、複数のファージが溶原化しているO157株との比較を行うことで、O157株で見られるファージ間相互作用の実態について理解する。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由)当初の見込みより効率的に研究を実施できたため物品費を抑えることができ、また細菌学会の総会が2023年度は行われなかったため旅費が生じなかった。 (使用計画)2023年度の未使用分については、次世代シーケンス解析など当初の計画通りに使用し、2024年度に行われる細菌学会の旅費として使用する計画である。
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