研究課題
抗ウイルスタンパク質であるAPOBEC3(以下:A3)ファミリーは、ウイルス遺伝子由来の一本鎖核酸(ssDNA、ssRNA)を標的として強力な抗レトロウイルス作用を持つことがわかってきた。一方で、これまでに申請者らがA3Hの二本鎖核酸(dsRNA)を介した二量体構造を決定し、A3Hが一本鎖核酸にしか結合しないと考えられてきた定説を覆す発見をした。しかし、A3Hの分子特性および抗ウイルス作用の分子機序は未解明のままである。本研究では、独自に構築したA3H-核酸結合の生化学的解析法を基盤に、A3Hの核酸結合能と細胞内分布の観点で機能解析を行い、抗ウイルス作用の分子機構を解明することを目的とする。当該年度において、野生型とdsRNAの結合領域の変異体(W115A)のchimpanzee A3H(cpzA3H)を用いて、cpzA3H分子の各種核酸との結合能を明らかにすることを目標に研究を実施し、以下の研究成果を得た。1)cpzA3HはdsRNAだけでなくA-formであるDNA/RNA duplexにも結合できる。2)dsRNAに結合できない変異型cpzA3Hは核質に局在し、細胞内で不安定である。3)Nuclear export signal(NES)を付加することによって変異型cpzA3Hは、細胞質に局在して、発現量が上昇し、ウイルス粒子内にも取り込まれる。以上のことから、cpzA3Hは、dsRNA、DNA/RNA duplexに結合し、HIVの逆転写の過程で重要な役割を果たしている可能性が非常に高いことが明らかになった。
2: おおむね順調に進展している
これまで、A3Hと各種核酸との結合を生化学的に解析する手法がなく、技術的な課題があった。本研究課題で、新たに独自に構築したA3H-核酸結合の生化学的解析法を基盤に、A3Hの核酸結合能の観点で機能解析を行うことができるようになった。この課題の克服により、A3Hの核酸結合能と蛍光顕微鏡を用いたA3Hの細胞内分布など新たな視点で機能解析を行えるようになり、A3Hの抗ウイルス作用の分子機構を明らかにできることが期待できる。実験自体は概ね計画通りに行うことができたので、おおむね順調に進展していると判断した。
A3H-核酸結合の生化学的解析法と点変異体A3Hを用いて、各種核酸(ssDNA、 ssRNA、 dsRNA)の結合に必要なA3Hの領域を決定する。さらに、A3Hは細胞質と核小体に局在するという、他のA3Hとは異なる特徴について解析を進めていく。具体的には、核小体と細胞質の局在化を規定するアミノ酸部位についても、蛍光顕微鏡を用いた局在解析でA3Hの細胞内局在化に必要な領域を決定する。そして、A3Hの細胞内局在化に必要な領域と各種核酸への結合に必要なA3Hの領域との関連性も検証する。次年度は、本研究で得られた基盤データに関して学会発表や学術論文として研究成果を積極的に発表していく。
1,549円が未使用額として少額残った。翌年度の使用計画に大きな変更はなく、当初の予定通りに執行する。
すべて 2023 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (2件) 備考 (1件)
Microbiology Spectrum
巻: 11 ページ: e00440-23
10.1128/spectrum.00440-23
https://crc.nnh.go.jp/departments/infectious_diseases/