研究課題/領域番号 |
23K06588
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研究機関 | 関西医科大学 |
研究代表者 |
住吉 麻実 関西医科大学, 医学部, 助教 (50779402)
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研究分担者 |
前川 洋一 岐阜大学, 大学院医学系研究科, 教授 (10294670)
日笠 幸一郎 関西医科大学, 医学部, 教授 (10419583)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | T細胞 / ADP-ribosylation factor / 細胞死 / 代謝 |
研究実績の概要 |
これまでに研究代表者は、低分子量Gタンパク質Arfアイソフォームに属するArf1とArf6を二重欠損させたナイーブCD4+ T細胞(Arf1/6-KO細胞)では、エフェクターT細胞への分化過程で細胞死が亢進することを見出している。T細胞は活性化過程で劇的に代謝パターンを変化させ、そのことが細胞機能や生存に重要であることが知られている。細胞死亢進の原因解明に向けた詳細な解析の結果、Arf1/6-KO細胞では活性化に伴うミトコンドリア予備呼吸能の上昇や細胞内脂質量の増加といった脂質代謝の制御に関係があると示唆される結果を得た。これらの知見を踏まえ、本年度は脂質代謝制御に着目した解析を行った。RNA-seqにより遺伝子発現解析を行った結果、Arf1/6-KO細胞で脂質代謝に関わる遺伝子発現群に変化は認められなかった。そこで、生化学的に脂質代謝への関与が知られている代謝のマスターレギュレーターmTORC1に着目した。活性化したArf1/6-KO細胞ではmTORC1の下流分子S6のリン酸化レベルが亢進しており、mTORC1シグナルが過剰に活性化していることが強く示唆された。過剰なmTORC1シグナルがT細胞に与える影響はTsc1欠損細胞の研究により既に報告されており、細胞肥大・細胞内脂質量の増加・活性化に伴うアポトーシスの亢進などArf1/6-KO細胞と同様の表現型を示す。また、Tsc1欠損を欠損させた培養細胞株ではERストレス誘導性のアポトーシスが観察される。そこで、Arf1/6-KO細胞における細胞死亢進の原因がmTORC1シグナルの過剰な活性化に伴うERストレス誘導性アポトーシスである可能を考え、ERストレス性アポトーシスマーカーCHOPの発現を調べた結果、Arf1/6-KO 細胞においてCHOPの発現が亢進していることが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
これまでの知見から、Arf1/6-KO細胞において細胞死が誘導されるメカニズムとして、脂質代謝異常が予想された。そこで、当初はRNA-seqで発現変化が認められた脂肪酸合成または脂肪酸分解に関わる遺伝子に着目した解析を進めていく予定であった。しかし予想に反し、これらの遺伝子群の発現に大きな変化は認められず、Arf1・Arf6は脂質代謝経路を直接制御していないことが明らかとなった。そこで視点を変え、mTORC1シグナルに着目した解析を行った結果、Arf1/6-KO細胞におけるmTORC1シグナルの過剰な活性化やERストレスの亢進が認められた。さらにrapamycinによりArf1/6-KO細胞の細胞死が抑制された。このように、当初は予想していなかった、T細胞の活性化過程における適切なmTORC1シグナルの調節やERストレスの抑制といったArfの新たな機能が明らかになった。
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今後の研究の推進方策 |
mTORC1経路とERストレス応答経路(UPR経路)は相補的に活性化を促進しあう関係であることが報告されている。Arf1/6-KO細胞ではmTORC1シグナルの下流であるS6のリン酸化レベルが亢進していた。この結果は、Arf1/6がmTORC1の上流でmTORC1経路を活性化しているというシュナイダー細胞を用いた今までの報告とは異なる。一方で、Arf1がmTORC2と結合し、mTORC2-Akt経路の活性化を抑制するという報告もある。そこで、Arf1/6-KO 細胞ではmTORC2-Akt経路が活性化されることにより、Aktの活性化を介してmTORC1が活性化する可能性を考えた。予想に反し、Arf1/6-KO細胞ではAktのリン酸化レベルがコントロールよりむしろ低下していた。このことから、Arf1/6はmTORC1経路の活性化を直接制御しているのではなく、UPR経路の制御を介して、mTORC1経路の過剰な活性化を抑制している可能性が示唆された。ERストレス下では、ゴルジ体-小胞体間で小胞輸送によりUPR関連分子の局在が変化することが知られている。Arfは小胞輸送制御因子であるため、今後はERストレスの中でも特にUPR関連分子の細胞内局在に焦点を当てた解析に取り組む。
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次年度使用額が生じた理由 |
予定していた実験のうち、研究代表者が担当したin vitoのT細胞機能解析実験が予想より進展したため、分担研究者マウスの感染実験については次年度に実施することにした。 そこで、本来2024年に予定していたマウスの解析に使用する金額を次年度に使用する。
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