研究課題/領域番号 |
23K06662
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研究機関 | 宮崎大学 |
研究代表者 |
北川 恭子 宮崎大学, 医学部, 助教 (20299605)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | オルガノイド / スキルス胃がん |
研究実績の概要 |
代表者らは既にゲノム編集による腺管状構造を保っている分化型胃癌(GC)オルガノイドの作製に成功し、K-ras活性化、TGFβシグナル阻害及び正常p53の消失 (KTP) がGC発生に寄与することを示している。さらにWntシグナルの活性化が加わる (WKTP)と、転移性獲得をもたらす可能性があることを見出している。またE-cadの変異は DGC発症要因の候補と報告されているが確定していない。 これらを総合し、DGCオルガノイド作製を目指したゲノム編集では、KTPオルガノイドをベースとしてWntの活性化 (W), E-cad消失 (E)を付加することとし、新たに2種類のゲノム編集オルガノイド(EKTP, EWKTP) を作製した。今年度はこの作製を完成させ、複数のクローンを得て解析ツールとした。 まずは3次元培養条件下での増殖速度、オルガノイド構造を合計4種類のオルガノイド間で比較評価した。増殖速度に差異は認められなかったが、 EKTP, EWKTPは腺管状構造が形成されず、spheroid状態のまま増殖を続けることがわかった。 またヌードマウスの腹腔内接種後のimagingによる増殖経過観察では、全4種のオルガノイドで増殖を認め、剖検及び組織観察によって腸間膜上で腫瘍塊が形成されたことがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題では「悪性度が高いびまん浸潤型胃癌 (diffused gastric cancer: DGC)はどのような特性を持つのか?」を根幹の問いとして、発症に関与する候補遺伝子をゲノム編集技術で改変して作製したオルガノイドをDGCのプレクリニカルモデルとして作製し、これを用いてがんの発生・進展要因の検索およびこれを標的とした治療効果を評価することを目指している。 今年度は課題遂行にあたって、研究計画調書に記載した通り、候補因子の設定に基づくゲノム編集オルガノイドを作製し、DGCのプレクリニカルモデルとしての有効性を in vitro 及び in vivo レベルで評価した。その結果、E-cad消失は、オルガノイドの腺管構造が消失する分化度の低下をもたらすことが示され、 DGCの特性の獲得に寄与していることが示唆された。一方で腹膜播種を想定した腹腔内接種後のオルガノイドの生育には4種類のオルガノイド間での差異は明らかにならなかった。このことは Wntの活性化、及びE-cad消失は転移成立後ではなく、転移発生する前段階でのDGCの進展に寄与している可能性を示唆する。 以上の通り、本研究は概ね計画通りの進捗状況にあると判断される。
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今後の研究の推進方策 |
転移発生前における W, E の寄与を評価するためには、胃壁へのオルガノイド接種を行い、追跡観察することが必要であると考える。 また本研究課題では、これら W, E に着目したプレクリニカルモデルでの発症・進展を観察・解析に加えて 1)未知のがん進展促進因子が存在する可能性 2) DGC患者は若年女性の割合が高いことからエストロゲンの関与の可能性 も検討することを計画している。新年度はこれらも順次遂行していく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
所属先の異動により、今年度は研究業務に従事できる時間が申請時の予定よりも短くなった。 次年度は今年度よりも従事時間は増やせる見込みであり、計画に沿った実験を遂行していく予定である。
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