研究実績の概要 |
本研究は,膵臓がんに着目し,生体内の腫瘍を模した三次元(3D)細胞培養法を駆使し,膵臓がん細胞のエネルギー獲得メカニズムの解明に挑む。研究代表者は先行研究において,3D培養がん細胞を抗原としたモノクローナル抗体を作製し,3D培養がん細胞において,解糖系酵素glucose-6-phosphate isomerase (GPI)の発現量が増加すると見出した。また,膵臓がん細胞株では他の組織由来のがん細胞株と比較して,GPIタンパク質量が少ない傾向があり,それらを3D培養すると優位に発現量が増加する可能性を示した。本研究では,3D培養膵臓がん細胞を膵臓がんの腫瘍モデルとし,GPIやその他の解糖系酵素の発現量の解析および,3D培養膵臓がん細胞における解糖系亢進のメカニズムを明らかにする。また,これらの膵臓がん細胞のエネルギー獲得メカニズムの解明から,膵臓がんにおける薬剤耐性機構の解明に迫る。 令和5年度では,定量PCRを用いた3D培養膵臓がん細胞における解糖系酵素のmRNA発現量解析および解糖系酵素の抗体作製とタンパク質発現量解析を実施した。細胞株はMIA PaCa-2, Panc-1, SUIT-2を用いた。まず,解糖系酵素のmRNA発現量解析の結果,3株すべてでhexokinase 2 (HK2), GPI, phosphoglycerate kinase 1 (PGK1)などが3D培養により大幅に増加した。そのため,PGK1に対するモノクローナル抗体を作製し,内在性のPGK1を認識するモノクローナル抗体を樹立した。また,培養液中のグルコース消費量と乳酸産生を測定し,3株すべてでグルコース消費量と乳酸産生量の3倍程度の増加を確認した。次に,GPIおよびPGK1に対するモノクローナル抗体を用いて,タンパク質量を定量したところ,3D培養がん細胞において増加した細胞株が確認された。
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