研究課題/領域番号 |
23K06717
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
木下 理恵 岡山大学, 医歯薬学域, 助教 (40518297)
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研究分担者 |
阪口 政清 岡山大学, 医歯薬学域, 教授 (70379840)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2027-03-31
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キーワード | がん / がん転移 / 抗体医薬品 |
研究実績の概要 |
S100A8/A9タンパク質(S100A8とS100A9のヘテロダイマー)は、主に好中球や単球など間質細胞に由来する炎症メディエーターである。申請者らは、他に類をみないS100A8/A9のヘテロダイマー構造特異的に結合するモノクローナル抗体をがん転移に対する治療薬として開発した。抗S100A8/A9抗体は、がん微小環境・がん転移が成立する前の臓器において急激に濃度が高まるS100A8/A9とその受容体群との結合を阻害し、広範囲な炎症性サイトカイン産生を抑制し、メラノーマ肺転移マウスモデルにおいては、がんの転移を有意に抑制する。また我々は、抗S100A8/A9抗体を特発性肺線維症の治療薬としても開発を進め、論文報告している。S100A8/A9は、臓器の線維化に共通の機構を推進しており、抗S100A8/A9抗体は線維化の抑制に働くため、高度な線維化を伴った間質増生を特徴とする膵がんの原発巣への治療にも適応可能であると確信をもつに至った。 本申請では、早期発見が難しく非常に高い浸潤・転移能をもつ膵がんの治療手段として開発抗体の原発巣およびがん転移への治療効果を示し臨床応用を目指す。 現在、S100A8/A9に応答して活性化するがん増悪因子の同定をRNA-seqを用いて各種細胞で実施している。またがん転移マウスモデルを構築し、抗S100A8/A9抗体の治療効果を評価中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は、数種類の免疫細胞について、S100A8/A9に応答して分泌されるがん増悪因子をRNA-seqにより解析した。S100A8/A9添加により発現量が増減した遺伝子をDifferential gene expression (DGE) analysis により同定し、発現量が増加した遺伝子におけるGene ontology解析によって、炎症関連因子やChemotaxisに関連した因子が、S100A8/A9の刺激によって数多く分泌・発現上昇しており、腫瘍微小環境の悪性化、細胞の遊走・浸潤によるがん転移の誘導が示唆される結果となった。そして、それら培養上清中のがん増悪因子が膵がん細胞に及ぼす影響を細胞の増殖、遊走・浸潤能の測定により評価した。 マウスモデルでは、ヒト膵がん細胞株AsPC-1(Luciferase安定発現株)の同所移植モデルを構築した。現在、IVISを用いたin vivoイメージングにより、抗S100A8/A9抗体のがん原発巣および転移巣に対する治療効果をControl IgGを対照群として、比較検討中である。またヒト膵がん細胞株AsPC-1とMIA Paca-2の脾臓内投与肝転移マウスモデルについても構築中である。
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今後の研究の推進方策 |
来年度は、今年度に引き続き、多臓器転移同所移植マウスモデルおよび肝転移脾臓移植マウスモデルにおける抗S100A8/A9抗体のがん原発巣および転移巣に対する治療効果の評価を続ける。IVISイメージングシステムでがん転移を確認後、原発巣および転移巣を採取し、臓器の写真撮影・各種組織染色(HE染色、Ki67染色、シリウスレッド染色(コラーゲンの染色による線維化の確認))・ELISA kit, RNA-Seqによるサイトカインやケモカインとそれらの受容体やがん関連因子の発現解析データから総合的に治療効果を評価する予定である。 また膵がん患者由来の組織切片および血漿を用いたS100A8/A9関連因子と膵がんの悪性度との相関解析、S100A8/A9に応答して活性化する膵がんの細胞内シグナルの解析を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度、想定していたよりもin vivoの実験データ取得に必要なマウスの匹数が少なかった。次年度、転移先臓器の網羅的な遺伝子解析に供するサンプル数を増やして、より詳細な解析を実施するために、その費用を使用する計画とした。
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