研究課題/領域番号 |
23K06755
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研究機関 | 久留米大学 |
研究代表者 |
山田 亮 久留米大学, 付置研究所, 特命教授 (50158177)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | ミトコンドリア / ホルミルペプチド / 腫瘍免疫 / ダメージ関連分子パターン |
研究実績の概要 |
我々はこれまでにミトコンドリアDNAによってコードされるタンパク質のホルミル化に必須な酵素Mtfmtをノックアウトしたマウス腫瘍細胞株(Mtfmt-KO株)をマウスに皮下移植した場合にMtfmt-KO株の腫瘍形成は野生株に比べ著明に抑制されることを報告し、ミトコンドリア由来ホルミルペプチドが抗腫瘍免疫に抑制的に作用していることを示してきた。そこで令和5年度はOVAを発現しているE.G7リンパ腫細胞から作製したMtfmt-KO株を用いてホルミルペプチドの抗腫瘍免疫抑制作用の機序を解明した。 1)Mtfmt-KOクローンと野生株について、細胞形態、ミトコンドリア画像形態及び量、糖代謝、酸化的リン酸化、酸素消費レート(OCR)、活性酸素(ROS)、細胞増殖に差は認められなかった。これらのことより、Mtfmt-KOクローンと野生株との腫瘍形成の差は宿主側の要因によるものであることが示唆された。 2)野生株E.G7細胞をマウスの皮下に移植・生着後にミトコンドリアホルミルペプチドを腫瘍内接種したところ、対照群に比べ腫瘍形成が促進された。また、ヌードマウスやT細胞除去マウスではMtfmt-KOクローンと野生株の間で腫瘍形成に差が認められなかったこと及びELISPOTアッセイの結果から宿主のCTL誘導がミトコンドリアホルミルペプチドにより抑制されていることが示唆された。 3)免疫組織化学染色ではF4/80マクロファージ及びCD11c樹状細胞の顕著な腫瘍内浸潤増加が認められた。ミトコンドリアホルミルペプチド腫瘍内投与により、PMN-MDSCおよびTregの増加が認められた。 以上のことより、腫瘍細胞由来ミトコンドリアホルミルペプチドは腫瘍微小環境中のPMN-MDSCやTregを介してCTL誘導を抑制していることが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の研究計画で掲げられた3つの項目のうちの一つである「ホルミルペプチドの抗腫瘍免疫抑制作用の機序解明」が終了したため。
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今後の研究の推進方策 |
当初の研究計画では令和5年度に実施したホルミルペプチドの抗腫瘍免疫抑制作用の機序の解明に続き、①免疫療法へのMtfmt-KOの影響、②ホルミルペプチドに対する単クローン抗体の作製およびがん治療への応用の可能性探索が次年度以降実施予定となっている。単クローン抗体作製のための予備検討として令和5年度に、マウスのミトコンドリアホルミルペプチドにキャリアータンパクを結合させた抗原を用い、ニワトリでポリクローナル抗体の作製を試みた。しかしながら、十分な抗体価の上昇は得られなかった。そこで、今後は抗体以外のペプチド等を用いた免疫抑制解除法についても研究を進めていく予定である。
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