研究実績の概要 |
1次視覚野(V1)のニューロンには眼優位性があるが, その生理的意義は深く考えて来られなかった。ヒトの視機能を客観的に評価する方法とし て視覚誘発電位(VEP)がある。ヒトの視覚情報は, 小細胞系(P系)と大細胞系(M系)で処理され, P系は物の形や輪郭, 色情報を, M系は物の動き, 立体視に重要である。P系とM系を選択的に刺激する視覚刺激を用いた優位眼の機能に関するVEP研究はほとんどない。そこで, V1における優位眼と非優位眼の機能的差を, 両眼干渉を指標にした多モダリティVEPで検討する。さらに両眼競合課題でのVEPも記録する。以上より, ヒトの優位眼の役割を電気生理学的に解明する。 眼優位性は, 両眼視下における各眼の機能的非対称性として概念的に広く認識されている。しかし, 両眼視機能(同時視, 融像, 立体視など)を理解する上で, 並列的情報処理の観点から両眼競合(視野闘争)や眼球間抑制のメカニズムを検討した統合的研究はほとんどない。本研究では, P系とM系の生理学的特性の違いとそのV1への入力部位の違いに着目した。すなわち, P系の色情報はV1のブロブを経て二次視覚野(V2)の細い縞へ, 形態情報はV1のブロブ間隙に入力しV2の薄い縞に向かう。一方, M系の運動視情報などはV1からV2の太い縞に入力する。両眼視はV1で成立するので, V1機能の客観的な指標としてVEPを用いる。両眼視下におけるVEPの変化を両眼干渉および両眼競合を生じさせる課題を負荷して, ヒトの優位眼と非優位眼の生理学的特性の解明を目指す。
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今後の研究の推進方策 |
対象: 統計学的検出力を担保するために, 裸眼ないし矯正視力が1.0以上の健常若年成人25名を目標例数とする。 実験課題: 両眼干渉課題による優位眼の機能解明 ①優位眼の決定: Hole-in-card法で, 遮蔽によって目標が見えなくなった側を優位眼と判定する。②視覚刺激: 臨床でよく使われる白/黒格子縞を参照刺激とする。前述したように赤/緑正弦波格子はP系ブロブ(色覚), 白/黒正弦波格子はP系ブロブ間隙(形態視), コヒーレント水平・放射状方向の運動はM系(運動視)の評価となる。単眼視での正常波形は, P100, N120, N95, P85である。③実験手順: 両眼視, 単眼視, 単眼への+3Dレンズ負荷(網膜像の不鮮明化)による両眼視VEPを記録する。所用時間は1時間程度なので4回に分けて記録する。④解析: 単眼視における優位眼・非優位眼の相違, 両眼視に対する優位眼・非優位眼の関与及び凸レンズ負荷による影響を両眼視VEPの変化で検討する。さらに、コヒーレント水平・放射方向の自覚的運動閾値を計測する。⑤予想される結果と仮説: 格子縞VEPでは, 振幅は両眼視>単眼視, 単眼視では優位眼>非優位眼である。凸レンズ負荷による両眼視VEPは低振幅化するが, 優位眼の影響は検討されていない。他の3種類の刺激による類似研究は, 検索した限り見つけられなかった。「P系とM系では, 優位眼・非優位眼に対する両眼干渉が異なる」という仮説を立て, それを検証する。また, 水平・放射状方向の自覚的運動閾値に対する優位眼の影響を記録する。
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