タウタンパク質は,過剰なリン酸化を受けると凝集して,神経原線維変化を形成する。神経原線維変化は,加齢した脳やアルツハイマー病の脳で見られる。タウのリン酸化がどのような条件で変化するのかを理解することは,脳の加齢やアルツハイマー病の発症メカニズムを理解する上で重要である。大きく分けて,二つのテーマで研究を進めた。 一つは,間歇的低酸素負荷モデルを用いた研究である。これまでに,間歇的低酸素負荷を施すとタウのリン酸化が増加することを見出していた。本研究においては,新たにアルツハイマー病モデルマウスを用いた研究を遂行した。その過程で,間歇的低酸素負荷がアミロイドβタンパク質(アルツハイマー病脳で蓄積が見られるタンパク質の一つ)の酸性を増加させること,やはり,タウのリン酸化を増加させることを見出した。特に興味深かったのは,間歇的低酸素負荷をしばらく行った後,マウスを通常環境で飼育してもその効果が持続していたことである。また,神経活動によって発現が増える遺伝子・タンパク質の量を調べたところ,間歇的低酸素負荷によってタンパク質翻訳が抑制されている可能性を見出した。 もう一つは,神経活動を起こした際に起きるタウのリン酸化の変化についての研究である。神経細胞でもマウスの脳においても,神経活動を惹起するとタウのリン酸化が減少することを明らかにした。今年度については,どの部分のリン酸化が変動するのかを明らかにした。また,その部位についての変異体を作製し,それらが微小管との結合に与える影響について解析を行った。
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