研究課題/領域番号 |
23K06803
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
田中 輝幸 東京大学, 大学院医学系研究科(医学部), 客員研究員 (10246647)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | CDKL5 / 活動依存性マンガン造影MRI |
研究実績の概要 |
本年度はCDKL5欠損症の主な症状である乳児期てんかんの発症機序の解明を目的とした研究を行った。てんかんは神経系の興奮/抑制(E/I)バランスの亢進によって起こり、グルタミン酸による興奮性の増強かGABAによる抑制性の減弱またはその両方が原因である。我々はGABAシグナリングが発達期に興奮性から抑制性へと変化することに注目し、GABAの作用変化の障害によりE/Iバランス亢進が生じるという仮説を立て、Cdkl5キナーゼ活性欠損KIマウス(KI)を用いて検証した。まずactivation-induced manganese-enhanced MRI (AIM-MRI)を用いて、KIと野生型マウス (WT) の全脳で神経活動の差を検証した。神経活動亢進領域について、神経細胞でGABAの作用を制御するCl-トランスポーターNKCC1とKCC2の発現量およびKCC2の機能制御因子Serine 940 (S940)とThreonine 1007 (T1007)のリン酸化を評価した。 結果:AIM-MRIでは、P20の右海馬でKIマウスのMn2+取り込みが有意に高かった。P19の右海馬サンプルのwestern blottingで、T1007リン酸化KCC2/KCC2の値がKIで有意に低かった。NKCC1とKCC2の発現量とS940のリン酸化には右半球および右海馬の両方でKIとWTの間に有意差は認められなかった。 考察: AIM-MRIによってP20のKIマウスの右海馬で神経活動亢進が明らかとなった。P19のKIマウスにおいてKCC2がT1007で脱リン酸化傾向となっていることが示された。T1007の脱リン酸化はKCC2の活性を高め、GABAを抑制性に働かせることから、KIではグルタミン酸シグナリングの異常により興奮性が増加し、恒常性可塑性の作用でKCC2がGABAの抑制性亢進に働いた可能性が考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、乳仔期のCdkl5キナーゼ活性欠損マウスにおける、脳全体の活動とCl-トランスポーターの発現およびその機能に関わるリン酸化の評価を行った。AIM-MRIの解析により、乳仔期のKIでは右海馬で活動が増加していることが明らかとなった。またwestern blottingにより、乳仔期のKIの右海馬においてKCC2の活動を促進させる働きを持つT1007におけるリン酸化が減少していることが示された。これらの結果により、Cdkl5キナーゼ活性を欠損すると乳仔期に右海馬で興奮性が高まるが、これは少なくともKCC2活性が落ちたことでGABAシグナリングの抑制性が弱まったことによるものではないことが示唆され、今後のグルタミン酸シグナリングの研究の必要性が示された。
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今後の研究の推進方策 |
CDKL5機能欠損による、海馬及び全脳レベルでの神経回路の活動性とダイナミクスの異常を定量的に捉える必要があり、そのための生理学的解析を、成体と乳仔期のノックアウトマウス、キナーゼ欠損ノックインマウスを用いて進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
予定していたCdkl5ノックアウトマウス、Cdkl5キナーゼ欠損ノックインマウスの脳波、fMRI解析を翌年に行う事にして、本年度はAIM-MRIと脳溶解物の生化学的解析に注力したため、脳神経回路実験に使用予定だった予算が残ってしまった。
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