研究実績の概要 |
転写共役因子複合体メディエーターを構成するサブユニットMED1は、リガンド依存性にエストロゲン受容体α (ERα)と結合して転写を活性化し、思春期乳腺の発育やERα陽性乳癌の増殖を促進する。またERαとMED1のバイパス副経路を成す転写共役因子CCAR1は、ERα機能を司ることから、MED1と協調して乳腺形成や乳癌増殖に関与するに違いない。本研究は「思春期乳腺や乳癌細胞でMED1とCCAR1が協調的にERα機能を担うことによって細胞増殖や癌発症を促進する」とする仮説を立て、マウス遺伝学的・分子細胞生物学的手法でこれを検証し、そのメカニズムをERαや関連転写共役因子の細胞内分子動態とこれらによる転写開始機構の観点から解明する。 私は先行研究で、ERαと結合するMED1の2つのLxxLLモチーフをLxxAAに改変した遺伝子改変マウスおよびCCAR1 KOマウス(未発表)と、EGFR2/HER2/neuを過剰発現する乳癌発症モデルマウス(PNAS 89:10578, 2000)を掛け合わせた独自の乳癌発症モデルマウスを作成し、まずMED1のLxxAA改変マウスに乳癌発症の遅延を認めた。次に、CCAR1ホモKOマウスは致死的であるのでCCAR1発現を半減させるヘテロKOを解析したところ、CCAR1ヘテロKO乳癌モデルマウスは野生型と比較し乳癌発症に差を認めなかった(未発表)。さらにMED1のLxxAA改変マウスかつCCAR1ヘテロKOの乳癌モデルマウスを作成し発症率を調べたところ、MED1のLxxAA改変マウスマウスと比較し乳癌発症がさらに顕著に遅延していた(未発表)。このことは、MED1とCCAR1がERα陽性乳癌の診断・治療で新規標的の有力候補になりうる可能性を提唱する。
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