研究課題/領域番号 |
23K06857
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
渡邉 健太郎 日本大学, 医学部, 准教授 (80373017)
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研究分担者 |
三枝 太郎 日本大学, 医学部, 助手 (70740520)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 動脈硬化 |
研究実績の概要 |
Apo-EノックアウトマウスとApo-Eノックアウトマウスをストレプトゾシンで処理し糖尿病を発症させたマウスを用いて、GLP-1であるリラグルチドとSGLT2阻害薬であるイプラグリフロジン投与による血管抗老化作用について検討した。大動脈の病理所見から、リラグルチドとイプラグリフロジン併用投与群が、コントロール(Apo-Eノックアウトマウス)、未治療およびそれぞれの単独投与群と比し動脈硬化性病変が最小であることが示された。さらに、大動脈における炎症性サイトカインや抗老化作用に関する遺伝子発現の差について、TNF-α、MCP-1、Sirt1およびFOXO3で群間に有意な差を認めた。リラグルチドおよびイプラグリフロジン併用群でコントロール群と比し、MCP-1発現は有意に低く、Sirt1およびFOXO3発現量は有意に高かった。本研究結果では、Apo-Eノックアウトマウスで、リラグルチドとイプラグリフロジン併用群が最も動脈硬化性病変の進行が抑制されており、GLP-1受容体作動薬とSGLT2阻害薬の併用療法が、強力な抗動脈硬化作用を示す可能性を示した。その機序として、両剤の併用により、Sirt1の発現を増加させ、FOXO3発現量の増加を介して血管内皮細胞を保護する可能性が示唆された。血管老化に関しては、FOXOファミリーは血管老化機序に影響する血管平滑筋細胞や血管内皮細胞の機能やアポトーシスに関与することが示されている。またSirt1はeNOSに直接作用し、NOの産生増加をもたらし、血管内皮細胞老化を抑制する。本研究結果により、GLP-1受容体作動薬とSGLT2阻害薬の併用療法が、Sirt1遺伝子発現増加を基とした血管老化抑制効果をもたらす可能性が明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
マウスモデルにおいて、GLP-1受容体作動薬とSGLT2阻害薬併用での血管抗老化作用が期待できる結果を得た。動物実験の結果から、ヒトにおいても、GLP-1受容体作動薬とSGLT2阻害薬併用療法が抗血管老化作用を発揮する可能性が示された。また、臨床研究を行う上で、抗血管老化を評価する臨床デザインを検討する際に活用できる情報を得ることができた。
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今後の研究の推進方策 |
今後はヒトにおいてGLP-1受容体作動薬とSGLT2阻害薬併用での抗血管老化作用について臨床研究で明らかにする予定である。臨床研究では、SGLT2阻害薬およびGLP-1受容体作動薬未投与群を対象とし、それぞれの薬剤投与群および併用群での末梢血白血球でのSirt1遺伝子発現の差について検討する予定である。 対象は2型糖尿病で当科治療中であり、GLP-1受容体作動薬およびSGLT2阻害薬で治療をされていない患者とする。試験期間は観察期間を含め7か月とする。対象を1か月の観察期間後に、試験開始時に無作為にGLP-1受容体作動薬投与群あるいはSGLT2阻害薬投与群の2群に分類し、GLP-1受容体作動薬投与群ではGLP-1受容体作動薬、SGLT2阻害薬投与群ではSGLT2阻害薬を3か月投与する。試験開始3か月後にGLP-1受容体作動薬投与群にはSGLT2阻害薬、SGLT2阻害薬群にはGLP-1受容体作動薬を投与し、さらに3か月間観察する。主要評価項目は2群間の試験開始時、3か月後および6か月後の末梢白血球中のSirt1mRNA発現の差とする。副次評価項目は2群間の2群間の試験開始時、3か月後および6か月後の体格指数、血圧、脂質代謝指標(LDLコレステロール、HDLコレステロール、中性脂肪)、腎機能(eGFR)、血清尿酸値、高感度CRP、尿アルブミン指数とする。2群間の主要および副次評価項目の比較から、ヒトでのGLP-1受容体作動薬およびSGLT2阻害薬併用による血管抗老化作用および抗動脈硬化作用につき評価する。
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