研究課題
HTLV-1関連脊髄症(HAM)は、HTLV-1に感染したCD4+T細胞が増殖・活性化し、それに対する過剰な免疫応答により脊髄が傷害され発症すると考えられている。研究代表者らはこれまでに、HAM患者のHTLV-1感染CD4+T細胞がHTLV-1 Taxの作用により炎症傾向のあるヘルパーT細胞へダイナミックに形質が変化していることを報告しているが、最近、その異常なT細胞を含むHAM患者のCD4+T細胞中でヒストンメチル化酵素EZH2が過剰発現していることを見出した。そこで本研究では、HAM患者におけるEZH2の過剰発現が、遺伝子発現を制御しているヒストン修飾のエピジェネティックな変化を引き起こし、HAMに特徴的な病態を引き起こしているのではないかと考え、そのメカニズム解明とEZH2等の阻害剤のHAM治療薬としての可能性を検討することを目的とした。2023年度は、EZH2阻害剤やEZH1/2二重阻害剤が、HAMのin vitro病態モデルであるHAM患者由来末梢血単核細胞(HAM-PBMC)の自発的増殖応答に対して、どのように作用するか調べた。その結果、EZH2阻害剤はHAM-PBMCの自発的増殖応答を1μMで有意に抑制し、EZH1/2二重阻害剤はそれよりも低い濃度の0.1μMで有意に抑制した(各p<0.01,p<0.05)。EZH1/2阻害剤はKi67+CD4+T細胞及びKi67+CD8+T細胞の割合を減少させ、HAM-PBMC中のHTLV-1プロウイルス量を1μMで有意に減少させた。(p<0.05)。したがって、特にEZH1/2二重阻害剤はHAMの感染細胞を減少させ、過剰免疫応答を抑制させることが判明し、HAMの治療薬となり得る可能性が示された。
2: おおむね順調に進展している
HAM患者由来末梢血単核細胞(HAM-PBMC)は、無刺激条件下で培養を行うと自発的に増殖するという、他のPBMCにはない特徴を有する。その際、HAMの特徴である感染細胞の増加と活性化、それに対する過剰な免疫応答(主にHTLV-1特異的CD8+T細胞の増殖)を認める。このHAMのin vitro病態モデルを用いて、EZH2阻害剤(GSK126またはタゼメトスタット)とEZH1/2二重阻害剤(OR-S1またはバレメトスタット)を添加した場合に、HAMに特徴的な表現型が抑制されるかどうか検討した。その結果、EZH2阻害剤はHAM-PBMCの自発的増殖応答を1μMで有意に抑制し、EZH1/2二重阻害剤はそれよりも低い濃度の0.1μMで有意に抑制した(各p<0.01,p<0.05)。EZH1/2二重阻害剤はKi67+CD4+T細胞及びKi67+CD8+T細胞の割合を減少させ、HAM-PBMC中のHTLV-1プロウイルス量を1μMで有意に減少させた。(p<0.05)。この結果から、EZH1/2二重阻害剤はHAMの感染細胞を減少し、過剰免疫応答を抑制した。このように、ヒストンメチル化酵素阻害剤がHAMの特徴的な表現型を抑制し、HAMの治療薬となり得る可能性を明らかにすることができたため、「おおむね順調に進展している」と判断した。
ヒストンメチル化酵素阻害剤であるEZH1/2二重阻害剤がHAMの感染細胞を減少させ、CD8+T細胞の増殖応答も抑制することが判明した。しかし、この薬剤が炎症性サイトカイン(IFN-γ, TNF-α, IL-6)および抑制性サイトカイン(IL-10)の産生に与える影響や感染細胞を減少させるメカニズムについては不明である。そのため、HAMのin vitro病態モデルを用いて、各種サイトカイン産生量をCytokine Beads Array kit(BD Biosciences社)を用いて測定し、既知の治療薬であるプレドニゾロンとの反応性を比較する。また、HAM患者の脳脊髄液から樹立したHTLV-1感染細胞株(HCT-4, HCT-5)は、Taxを恒常的に発現する均一の細胞集団である。この細胞株を用いてEZH1/2二重阻害剤が感染細胞株の増殖能に与える影響(cell counting kit-8使用)やアポトーシス誘導活性(Annexin Vと7-AADを用いたフローサイトメトリー解析)を調べる予定である。
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