研究課題/領域番号 |
23K06963
|
研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
遠藤 史人 名古屋大学, 環境医学研究所, 特任講師 (10713307)
|
研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
|
キーワード | アルツハイマー病 |
研究実績の概要 |
アルツハイマー病(AD)は加齢依存性に発症する認知症の代表的な原因疾患であるが、病態を抑止する治療法は開発されていない。老人斑の周囲に集簇するアストロサイトはGFAPを高発現し活性化状態となり、ADのリスク遺伝子であるAPOE、CLUなどはアストロサイトで高発現することが知られているが、ADの病態メカニズムにおけるアストロサイトの役割は十分に解明されていない。申請者はアストロサイトの形態学的複雑性を規定する遺伝子群を発見し、その遺伝子群はADのモデルマウスや患者脳のアストロサイトで発現が低下し、さらにモデルマウスのアストロサイトの形態学的複雑性が減少していたことから、アストロサイトの形態学的複雑性の変化がADの病態に重要であることが明らかにした。本研究課題では、アストロサイトの形態学的複雑性を規定する遺伝子の過剰発現またはDREADD法によるアストロサイトのGi-GPCRシグナル活性化により、アストロサイトの形態複雑性の低下を抑制することがADの新たな治療標的となるかどうかを検証することを目的とする。今年度は、APP/PS1マウスにPHP.eBウィルスを投与し、全能でアストロサイト特異的にhM4D受容体を過剰発現させ、DCZによりアストロサイト特異的にGi-GPCRシグナルの活性化させると、アストロサイトの領域サイズの低下の抑制を伴って、マウスの認知機能低下が改善することを見出した。興味深いことに、このようなマウスでは免疫組織染色でアストロサイトの活性化マーカーであるGFAPの発現やAβプラークの蓄積には変化を認めなかった。これらの結果は、アストロサイトのGi-GPCRシグナルの活性化がADの治療標的となる可能性を示唆する有望な結果であると考える。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初の予定では、今年度にタウ病理を再現するrTg4510マウスのアストロサイトの形態複雑性の解析とアストロサイトの遺伝子発現解析を行う予定であったが、実験に用いるマウスとAAVの準備のため、予定よりも実施が遅れている状況である。一方で、APP/PS1マウスのアストロサイトのGi-GPCRシグナルの活性化の実験で有望な結果が得られており、今年度は、この実験計画を前倒ししてて行った。したがって、全体としての研究の進捗はやや遅れている状況と判断している。
|
今後の研究の推進方策 |
次年度以降では、rTg4510マウスのアストロサイトの形態解析を行う。次に、rTg4510マウスのアストロサイトのトランスクリプトーム解析を実施し、APP/PS1マウスとrTg4510マウスのアストロサイトにおいて共通して発現が低下または上昇する遺伝子と申請者が見出したアストロサイトの形態複雑性関連遺伝子を比較し、有望な治療標的を見出す予定である。APP/PS1マウスのアストロサイトのGi-GPCRシグナルの活性化の実験について、アストロサイトの領域サイズの低下の抑制やマウスの認知機能低下の改善の分子メカニズムの解明を目指し、大脳皮質や海馬を用いてRNAシーケンスによる網羅的遺伝子発現解析を実施する予定である。また、国内外の学会に参加し、積極的に研究発表したいと考えている。
|
次年度使用額が生じた理由 |
次年度の研究計画の遂行にあたり、次の理由で研究経費が必要となる。(1)マウス脳組織のアストロサイトの遺伝子発現解析のため、細胞単離試薬のための磁気ビーズ融合抗体やカラムなど、RNAシーケンス用のライブラリー調整試薬などの購入するため。(2)実験に使用するマウスを飼育し、維持する必要があるため。
|