研究実績の概要 |
一酸化窒素(NO)は、血管を拡張する他、神経伝達物質としても機能する重要な気体である。NO合成酵素は、アルギニンを基質としてNOを合成するが、生体内メチルアルギニンにより競合阻害される。アラニン:グリオキシル酸アミノ基転移酵素2(AGXT2)は、脳、肝臓、腎臓で発現している酵素で、メチルアルギニンを分解する。AGXT2には酵素活性を欠損させる機能性多型があり、生体内のメチルアルギニン量を決定している。我々は、日本人において約30%がAGXT2酵素活性を欠損していることから、認知症を含めた疾患との関連の可能性を検討し、すでに糖尿病や高血圧との関連を報告している。今回、愛媛コーホートに参加している健常者群2,314名を対象として認知症前駆段階のうつ症状に対しての研究を行った。うつ病尺度CES-D(Center for epidemiologic Studies Depression Scale)を用いて、うつ状態と診断した280名と健常と判定した2034名のAGXT2の4つの機能性多型(rs37370, rs37369, rs180749, rs16899974)の関連を解析した。その結果、rs180749のみ有意にうつ症状と関連し、GGアレルを持つものに比較してGAもしくはAAアレルを持つもので有意にうつ症状を起こすこと、ハーディ・ワインベルグ平衡を満たすrs37370, rs180749, rs16899974の3つのハプロタイプ解析でもAGXT2遺伝子とうつ状態が関係することが明らかになった。これらのアレルやハプロタイプ解析から、AGXT2遺伝子が、うつ症状に関係している可能性が考えられた。今後は、AGXT2多型がどのようにうつ症状に関わっているかについて、培養細胞や酵素活性を欠損したノックアウトマウスを用いて解析を進めることを予定している。
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