研究実績の概要 |
超高線量率照射(40 Gy/sec以上)による“FLASH”放射線治療(FLASH照射)は治療可能比の新規改善手段として可能性を秘めている放射線治療技術である。脳においては、マウス全脳にたいして電子線をFLASH照射した研究で、発達遅延および知能障害の軽減、海馬の細胞分裂障害の軽減など、正常組織障害を軽減させるという効果(FLASH効果)が報告されている。一方、炭素線では、マウスを用いた基礎実験により筋肉におけるFLASH効果が確認・報告されたが、それ以外の臓器は報告されていない。 本課題では、まず正常脳組織に対する炭素イオン線の生物学的効果を調べるため、C57BL/6Jマウスを用いて実験を行った。群馬大学重粒子線治療施設の炭素イオン線(290 MeV/n, スキャンニングビーム)を用いて、dose averaged LET (LETd) 13 keV/micrometer(低LET)または80 keV/micrometer(spread out Bragg peak 10mmの中心, 高LET)にて、炭素線10~20 Gyを全脳または脳局所に対して照射した。通常線量率照射(CONV)は0.042~0.055 Gy/s 、超高線量率照射(FLASH)はFLASH条件を満たす40 Gy/s以上を用いた。 照射2か月後にオープンフィールドテストによる機能解析を行った結果、低LETにて照射したCONV群は非照射群およびFLASH群と比較して中央区域での滞在時間が有意に長く、壁周辺区域での探索時間が低下している傾向が見られた。一方で、これらの行動の変化は高LETでは見られなかった。 現在、追試を行い、これらの結果の再現性について調べている。併せて、病理組織学的および分子生物学的な手法を用いた詳細な解析を行なっている。
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