研究課題/領域番号 |
23K07147
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研究機関 | 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構 |
研究代表者 |
野口 実穂 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構, 量子生命科学研究所, 主幹研究員 (40455283)
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研究分担者 |
平山 亮一 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構, 量子医科学研究所 重粒子線治療研究部, 研究統括 (90435701)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 放射線誘発老化 / 線維芽細胞 / オートファジー / ミトコンドリア断片化 |
研究実績の概要 |
皮膚組織の真皮を構成する線維芽細胞について、老化線維芽細胞の性質の解明を行った。まず放射線照射による線維芽細胞の老化に関わるタンパク質の経時的な発現を調べた。DNA損傷により照射直後からp53が活性化した一方、RBのリン酸化は抑制された。p53の活性は照射5日目まで維持されたが、それ以降は低下した。続いてp16の発現が上昇し、照射30日後まで高い発現レベルが維持された。これらの結果から線維芽細胞の放射線誘発老化はp53-p21経路およびRB-p16経路により誘導・維持されることが明らかになった。 次に放射線誘発老化に伴うオート―ファジーについて、関連タンパク質の経時的な発現を調べた。照射直後からp53の下流にあり、Ulk1の脱リン酸化酵素でもあるPPM1Dの発現が上昇し、Ulk1が脱リン酸化され、照射18時間以降にはLC3-IIの発現が上昇して、オートファジーが促進された。しかし照射2日後にはUlk1の発現が急激に減少し、LC3-IIの発現も減少に転じた結果オートファジーは抑制され、低レベルのオートファジー活性が照射30日後まで持続した。 続いてオートファジーの分解基質であり、放射線照射の標的オルガネラでもあるミトコンドリアの形態変化について調べた。照射2日後には断片化ミトコンドリアが顕著に増加し、断片化部分にリソソームが局在したことから、断片化ミトコンドリア部分にマイトファジーが誘導された可能性が示唆された。断片化ミトコンドリアとリソソームの共局在は3日目以降減少したのに対し、リソソームの活性は上昇し、高活性が照射30日後まで持続した。これらの結果から放射線照射を受けた線維芽細胞は老化とオートファジーが誘導されるが、オートファジーはDNA損傷とマイトファジーにより一時的に促進されるのに対し、老化はDNA損傷応答の持続による細胞周期の停止により永続的に維持されることが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
3D培養オルガネラの構築が遅れている。皮膚のオルガネラ構築はインサート上にベースとなるコラーゲン層を作ったのち、その上にコラーゲン・線維芽細胞混合溶液を加えてゲル化させ、さらにその上にケラチノサイト播種し、ケラチノサイトを分化させていく必要がある。何度も構築したオルガネラをHE染色しても細胞が見当たらず、その原因を検討したところ、ベースコラーゲン層のpHが低すぎることが判明した。また、ケラチノサイトの気相液相培養もうまくいかないため、この原因を調べたところ、プライマリーのケラチノサイトの性質を保持している低継代数の場合しか分化しないことを突き止めた。これらの原因を改善して研究を進めていく予定である。
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今後の研究の推進方策 |
ケラチノサイトについて、放射線照射後の老化誘導の有無を確認する。細胞死ではなく、老化が誘導されている場合は、SASP因子が放出されていると考えられるため、老化後の経時的なSASP因子の種類や量的な変化をReal time PCRにより調べる。 また、線維芽細胞についても同様にSASP因子の経時的な変化を調べる。 3Dオルガネラについては、3D構造を上記の改善を実施することで構築したのち、ケラチノサイトが多層化・分化できているかの確認を各層に特異的なマーカーにより確認する。 続いて構築した3DオルガネラにX線を照射し、線維化の指標であるTGF-βの発現量、並びに切片を作成してαSMAを免疫組織化学染色で検出し、コラーゲンの沈着をpicrosirius red染色により検出を行い、放射線による線維化を確認する。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由)3Dオルガネラの作成がうまくいかなかったため、それ以降の実験で使用するものの購入ができず、次年度使用額が生じた。
(使用計画)3Dオルガネラ切片の免疫組織化学染色に使用する各種抗体、遺伝子発現解析のための各種プライマーの購入に使用する。
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