研究実績の概要 |
DNA二本鎖切断(DSB)の修復機構には相同組換え修復(HR)、非相同末端結合(NHEJ)、微小相同配列媒介末端結合(MMEJ)、一本鎖アニーリング(SSA)の4つが存在する。HRは相同染色体を用いた正確な修復で遺伝子異常をきたさないが、その他の機構で修復される場合には塩基対欠失・挿入、転位などの遺伝子変異を残すことになる。SSAの主要分子であるRad52に対する2種の阻害薬(6-OH-Dopa, D-I03)を用いて以下の実験を行った。 1. HCT116(大腸癌細胞)およびH460(肺癌細胞)に対してγ線照射(0,2,5,8 Gy)を行い、コロニー形成試験にて生存率曲線を求めた。両細胞ともにRad52阻害薬の投与有無で照射による細胞生存率に有意な差は認めなかった。いずれの線量でも明らかな差は無くSSAの細胞死・生存への影響は小さい。照射後のDNA二本鎖切断修復の主要経路はNHEJと考えられていることから、Rad52阻害によって大きく変化する可能性は小さく予想通りの結果ともいえる。 2. HCT116およびH460に対して10Gy照射し、24時間後に細胞を回収して全ゲノムシークエンスを行った。Ultra-long read sequenceを行い、染色体転位、重複など構造異常を含めて遺伝子変異の頻度を測定した。2種類のRad52阻害薬を照射直前に投与して照射のみと比較したところ、薬剤同時併用の場合は塩基対欠失・挿入が減少し、重複と転位が増加した。逆位は薬剤投与による変化はわずかであった。 細胞生存率に変化は生じないが、DNA-DSB修復機構の選択次第で、遺伝子変異の種類や頻度が変化することが示された。今後更に様々な癌種や正常細胞での変化を分析する必要があるが、これらの結果は放射線治療による放射線抵抗性獲得や2次発癌の発生制御につながることが期待される。
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