研究課題
本研究では、放射線治療による腫瘍免疫微小環境のモニタリング方法を確立し新規薬物療法と放射線治療の併用治療効果予測を目的とする。具体的には、(A) 治療前および治療中の生検検体の免疫組織染色を用いた腫瘍免疫環境変化の解析、(B) 腫瘍特異的抗原とそれに対する腫瘍内浸潤リンパ球の標的解析、(C) 末梢血中のT細胞受容体レパトア解析による腫瘍免疫のリアルタイムモニタリング法を確立し、併用療法の効果予測や個別化放射線治療の実用化を目指す。2023年度では、DNAの二本鎖切断が生じた際に形成されるタンパクであるγ-H2AXについて、DNA修復能のマーカーとしての末梢血リンパ球の放射線誘発γ-H2AXの動態が放射線治療による晩期有害事象の予測に有用であるかを検討した。子宮頸がん、膣がん、肛門管がんに対して根治的放射線治療を受けた患者の末梢血を用いた研究で、γ-H2AXは消化管および尿路系の晩期有害事象との関連を認めた。この結果は、末梢血リンパ球における放射線誘発γ-H2AXの測定により放射線療法による晩期有害事象のリスクを予測することができる可能性を示しており、これを用いることで副作用を最小限に抑えた個別化放射線治療が可能となる可能性を示唆している。この結果はJournal of Radiation Research誌に掲載された。(doi: 10.1093/jrr/rrad079)また、生検腫瘍検体における腫瘍内浸潤リンパ球のT細胞受容体レパトアの検討、また治療前後の末梢血中のT細胞受容体レパトアの比較などを行っている。
2: おおむね順調に進展している
当施設で根治的放射線治療を行った子宮頸癌症例において、生検腫瘍検体の腫瘍内浸潤リンパ球のT細胞受容体レパトアと治療前後の末梢血中のT細胞受容体レパトアの比較、また、T細胞受容体中の可変鎖の一部である、CDR3配列(Complementarity Determining Region:相補性決定領域)を比較し治療効果との関連を調べた。
引き続き症例を集積し、生検腫瘍検体における腫瘍免疫環境の評価や末梢血中のT細胞受容体レパトアの比較・検討を行う。また、サンプルが得られた患者群の臨床情報を収集し、局所再発や遠隔転移の有無といった放射線治療効果の予測因子、また免疫療法を行っている場合にはその治療効果の予測因子などに関連する生物学的因子の同定を進め、放射線感受性予測法の臨床応用と個別化放射線治療の実用化を目指す。
(理由)サンプル収集を優先させており、研究計画に差支えないことを前提に、一部の試薬や測定キットの購入を次年度に見合わせたためである。(使用計画)前年度に購入しなかった試薬を購入し、その他は概ね計画通りに使用する。
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すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 2件)
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