研究実績の概要 |
われわれはこれまでにROBO1遺伝子の両アレル性病的バリアントが、下垂体機能低下症、脳梁・脳幹の低形成、斜視、腎尿路形態異常、発達遅滞、特異顔貌を伴う新規症候性疾患の原因であることを世界で初めて報告し、斜視、脳梁低形成がROBO1異常症の診断の鍵となる表現型であることを提唱した。本研究では、先天性下垂体機能低下症、斜視、脳梁低形成の患者に対して、候補遺伝子解析、もしくは全エクソーム解析を行い、ROBO1異常症の臨床スペクトラム、先天性下垂体機能低下症や斜視、中枢神経系の異常をきたす新規の疾患概念の確立を目指すものである。われわれは現在までに下垂体機能低下症に斜視、脳梁低形成を合併した症例4症例にトリオ全エクソーム解析を行った。1例はROBO1遺伝子に新規のホモ接合性フレームシフトバリアントを認め、その詳細な臨床像を報告した(Dateki et al. J Hum Genet 2019)。その他の3例では原因と考える遺伝子異常の特定には至らなかった。この3例においては新規の原因遺伝子の異常が含まれている可能性があり、今後の症例の蓄積にて共通の遺伝子異常がないか検討していく予定である。 これまでのROBO1異常症の臨床像の検討から、ROBO1異常症における下垂体機能低下症の浸透度は低いことが示唆された(Munch J, et al. Kidney Int, 2022)。今後、下垂体機能低下症合併例のみならず、斜視や脳梁低形成のみの表現型を有する症例も対象にひろげ、解析を進めていく予定である。
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今後の研究の推進方策 |
当初ROBO1に加えて脳梁低形成、斜視、視神経低形成の既知の原因遺伝子群(HESX1, OTX2, SOX2, SOX3, BMP4, FGF8, TCF7L1, PHOX2A, SALL4, KIF21A, ROBO3, HOXA1, CHN1, TUBB3等)を網羅したパネル解析を行う予定であった。しかし、前述のように十分な研究対象症例数が確保できない状況があること、また、既知遺伝子異常症の頻度は高くないと推測されることから、将来的な新規原因遺伝子異常症の同定に向けて、全例、全エクソーム解析を優先することにした。また通常の遺伝子解析では同定しにくいゲノムコピー数の異常(微小欠失、重複)の同定のため、変異陰性例に対してはマイクロアレイ染色体検査を追加検査として行う。今後解析対象症例数が増えるようであれば、既知原因遺伝子パネル遺伝子解析を導入する予定である。 今後、遺伝子異常陽性例が蓄積された場合、過去の報告例とあわせて、詳細な表現型、成長発達の状況、ホルモン学的検査所見、頭部MRI所見、遺伝型(片アレル性、両アレル性)を含めたデータを集積し、ROBO1異常症の詳細な臨床スペクトラム、表現型の多様性、浸透度、自然歴、遺伝型―表現型の関連性を決定する。
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