研究課題
近年のゲノム解析の進展によりヒトのタンパク質は同定し尽くしたと考えられていたが,コドン数100未満の短いORF (short open reading frame, sORF)が存在し,機能するタンパク質をコードしていることがわかってきた.sORFから翻訳される100アミノ酸未満のタンパク質はマイクロプロテインと呼ばれ,細胞増殖,代謝,細胞死など生体内で重要な働きをしていることが示唆され,疾患の発症・進展への関連が報告されはじめている.また,タンパク質に翻訳されないと考えられていた非コード遺伝子(lncRNA等)の中にも非典型的な翻訳領域が存在し,マイクロプロテインと類似の機能的なペプチドを合成している例が見つかっている.本研究では,癌抑制遺伝子TP53の変異を高頻度に認める食道扁平上皮癌をモデルとし,p53ファミリーに制御される,あるいはp53ネットワークの破綻により発現変化するマイクロプロテインを分析し,機能解析へと展開する.さらに発現異常,悪性度および治療効果との関連性の解析を行っている.今回,野生型p53により翻訳が上昇する短いORFとして第17番染色体長腕の遺伝子間領域に存在するコドン数44の領域を同定した.その領域から翻訳されるマイクロプロテインをp53MP1と命名し細胞内発現の検討を行ったところ,野生型p53導入により細胞核に発現誘導されることを見出した.p53MP1の核局在は細胞増殖を抑制し,臨床検体での解析で予後不良に関連することを明らかにした.
2: おおむね順調に進展している
高率にTP53変異を認めるが,分子標的に乏しい腫瘍に対する治療法開発の基礎研究として,リボソームプロファイリング,およびRNA-seq(totalおよび100-500塩基のサイズセレクション)を行い,p53ネットワークに制御される未知のマイクロプロテインの同定,および発現異常,悪性度および治療効果との関連性を分析した.野生型p53により翻訳が上昇する短いORFとして第17番染色体長腕の遺伝子間領域に存在するコドン数44の領域を同定した.その領域から翻訳されるマイクロプロテインをp53MP1と命名し細胞内発現の検討を行ったところ,野生型p53導入により細胞核に発現誘導されることを見出した.p53MP1の核局在は細胞増殖を抑制し,臨床検体での解析で予後不良に関連することを明らかにした.
1) GOF変異p53導入による、細胞増殖能、抗がん剤感受性の解析を複数種類の食道癌細胞株、およびヒト正常食道扁平上皮細胞株で行う。2)次世代シークエンサーを用いて、変異型p53のGOFによって変化するトランスクリプトームを抽出する。そのうちマイクロプロテインに翻訳されることが予想されるトランスクリプトを約120種同定しており、食道扁平上皮癌組織での発現をISH法,qRT-PCR法を用いて解析し、臨床病理学的因子(脈管浸潤、リンパ球浸潤、リンパ節転移、遠隔転移など、治療抵抗性,予後との相関 の有無から、バイオマーカーとしての有用性を順次検討する。
本年度はリボソームプロファイリング,およびRNA-seqを行ったが、大学予算の試薬を使用できたため、充分な実験データが得られた。最終的に47万円あまりの次年度使用額が生じた。<使用計画> 施行済みの次世代シークエンサー解析、およびp53結合コンセンサス配列の全ゲノム網羅的解析から、p53に制御される非コードRNAの候補を同定している。R6年度は、ヒト正常食道扁平上皮細胞株を用いた解析を予定している。また、論文の投稿、関係学会での成果発表を予定している。細胞レベルでの発現・転写解析のための試薬類(次世代シークエンス試薬)、臨床検体でのRNA発現解析のための試薬類(酵素類約),学会出張旅費:日本分子生物学会(場所福岡,2024年11月27日-11月29日)等に活用予定である。
すべて 2023 その他
すべて 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 1件、 査読あり 2件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 1件) 備考 (2件)
Cancer Epidemiology
巻: 87 ページ: 102455~102455
10.1016/j.canep.2023.102455
Pathology International
巻: 73 ページ: 327~329
10.1111/pin.13348
https://researcher.sapmed.ac.jp/html/100000065_ja.html
https://web.sapmed.ac.jp/biol/sasaki.html