研究課題
本研究の目的は消化器腫瘍組織の三次リンパ組織 (TLS) 中の各疲弊ステージの疲弊T細胞(Tex)を同定し、その機能的意義を解析し、有効な腫瘍免疫療法を確立するための基盤となる新たな知見を得ることである。そのためにまず食道癌30症例を対象に、腫瘍組織TLSを構成するTex (TLS Tex)、TLS周囲に存在する腫瘍浸潤Tex (non-TLS Tex)の疲弊ステージ毎の細胞数を定量的に測定した。その結果、疲弊状態が比較的早期の段階のTexは主にTLS領域に集積しており、疲弊がある程度進んだTexはnon-TLS Tex内により多く検出されることを見いだした。そして患者毎のTLS Tex/non-TLS Texの疲弊状態別の細胞組成を比較すると、特定のT細胞サブセットの多寡が免疫チェックポイント阻害治療の臨床経過と関連することを明らかにした。さらにTLS Tex、non-TLS Texと、その他の免疫細胞や腫瘍細胞との空間的な近接性を測定することにより、腫瘍特異的T細胞がTLSから腫瘍細胞に移動する過程で疲弊状態が変化する可能性を示唆する結果が得られている。また予後に関連するSLO(二次リンパ組織) Tex, TLS Tex, non-TLS Texの機能的差異の解析を進めている。これらの知見は、腫瘍組織内に生じているTLSが腫瘍特異的T細胞の機能にどのように関与しているかを知る助けとなり、さらにSLOとTLSにおける抗原提示の質の差についての理解を深める情報を提供するものである。本研究は進行食道癌症例を対象に研究とした解析が進行している。さらに進行胃癌症例の腫瘍組織、末梢血免疫細胞の検体収集も同時に進行しており、萎縮粘膜の背景の有無など発生母地が多様な胃癌におけるT細胞の分布の解析など、新たな知見が期待される。
2: おおむね順調に進展している
研究対象である消化器腫瘍の症例の検体として、進行食道癌30症例の腫瘍組織と末梢血免疫細胞の収集は終えている。また進行胃癌についても同様の検体の収集を継続している。これらの症例の治療経過(RECIST ver.1.1に基づく効果判定)や生存期間を含む臨床情報も合わせて収集している。消化器腫瘍組織TLSおよびnon-TLS Texの構成細胞の定量的解析には、切除された消化器癌組織のホルマリン固定パラフィン包埋(FFPE)検体を、37種の分子に対する金属安定同位体ラベル抗体により多重染色しマスサイトメーターにて測定した。得られたデータを基にイメージ解析ソフトウェアにてTLS構成細胞の発現蛋白を解析した。これらの測定は順調に実施できており、各疲弊段階にあるTexサブセットの個別の同定やその腫瘍組織中の位置の同定が可能となった。個々のnon-TLS TexとTLS Texと腫瘍細胞との距離などの位置情報も画像解析ソフトにより測定している。
進行食道癌症例を対象とした解析では、特定の疲弊状態にあるT細胞がTLSやnon-TLS領域に存在することが、免疫チェックポイント阻害治療の有効性に関与する傾向が判明しつつあるため、各々のT細胞サブセットの機能的役割を解明するため関連分子の発現の測定を行う。腫瘍免疫としての機能を発揮するために、腫瘍特異的T細胞に対する抗原提示は二次リンパ組織(SLO)だけでなく三次リンパ組織(TLS)でも行われていると考えられる。それらの機能的な違いを解明するため、今後各細胞の発現分子の解析を実施する。細胞の腫瘍組織内での位置情報を解析するため、よりノイズの少ない画像解析ソフトの利用方法も検討する。これらの項目は、現在症例集積中の胃癌についても同様に解析を行う。
すべて 2023
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Cancers
巻: 15 ページ: 5608~5608
10.3390/cancers15235608
Cancer Immunology, Immunotherapy
巻: 72 ページ: 3543~3558
10.1007/s00262-023-03505-4