研究課題
膵癌は、もっとも予後が不良な固形癌の一つであり、革新的な膵癌治療法・早期診断法の開発が求められている。癌に対する液性免疫応答は発癌過程の極めて早い段階で誘導され、癌細胞の排除に働きうるとともに、癌抗原を認識する自己抗体が血中に出現することが知られてきた。また、液性免疫応答を担う腫瘍浸潤B細胞(TIL-B)が、腫瘍免疫微小環境で重要な役割を果していることが近年明らかになってきたが、TIL-Bが産生する自己抗体が認識する抗原についての解析はほとんどなされていない。本研究では、膵癌PDXモデルの血中からTIL-B由来の抗原―自己抗体複合体を分離し、我々が開発した超高感度自己抗体結合抗原解析を行うことで、TIL-B産生自己抗体が認識する癌抗原を網羅的にプロファイリングする。これにより、局所自己抗体が認識する免疫原性の高い新規癌抗原の同定から、革新的な膵癌治療標的分子、早期診断バイオマーカーの開発を目指す。本年度は、膵癌PDXモデルの作成に並行して、予備的解析として、PDXモデルの血中から免疫グロブリン分画の単離と免疫グロブリン結合抗原のプロテオーム解析を行った。Rag2/Jak3二重欠損マウスの血液にヒトIgGを添加すると、マススペクトロメトリーでの定量値は添加量に比例した。免疫グロブリン結合抗原のプロテオーム解析では計239個のタンパク質が同定された。いくつか興味深い抗原が同定された一方で、約40%がマウスタンパク質であったことから、さらにマウス血漿由来タンパク質の混入を減らす必要があると考えられた。
2: おおむね順調に進展している
予備的解析として、PDXモデルの血中から免疫グロブリン分画の単離と免疫グロブリン結合抗原のプロテオーム解析を行った。Rag2/Jak3二重欠損マウスの血液にヒトIgGを添加すると、マススペクトロメトリーでの定量値は添加量に比例した。免疫グロブリン結合抗原のプロテオーム解析では計239個のタンパク質が同定された。いくつか興味深い抗原が同定された一方で、約40%がマウスタンパク質であったことから、さらにマウス血漿由来タンパク質の混入を減らす必要があると考えられた。
現在各PDX症例の全エクソーム解析、RNAシーケンス解析を進めており、既存のアミノ酸配列データベースに基づく解析だけでなく、ゲノム、トランスクリプトーム情報から構築した症例固有の予測アミノ酸配列データベースに基づく解析と、データベース非依存性のMS/MSスペクトルに基づくde novoシーケンシング解析というプロテオゲノミクス的アプローチを導入して、異常スプライシングや遺伝子変異などに由来する未知のアミノ酸配列を持つ膵癌特異的抗原の同定を目指す。
コロナ禍により、プロテオーム解析計画にずれが生じたため、次年度使用額が生じた。解析計画を修正し、次年度使用する予定である。
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