研究課題/領域番号 |
23K07402
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研究機関 | 順天堂大学 |
研究代表者 |
今 一義 順天堂大学, 医学部, 先任准教授 (30398672)
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研究分担者 |
池嶋 健一 順天堂大学, 医学部, 教授 (20317382)
李 賢哲 順天堂大学, 医学部, 准教授 (30758321)
千葉 麻子 順天堂大学, 医学部, 准教授 (40532726)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 脂肪性肝疾患 / 肝がん / 抗腫瘍免疫 / リピドミクス |
研究実績の概要 |
脂質プロファイルが脂肪肝炎関連肝発がんおよび抗腫瘍免疫に与える影響を明らかにし、治療ターゲットとなりうる脂質を同定するために、令和5年度は脂肪肝炎関連肝発がんモデルである肝細胞特異的phosphatase and tensine homologノックアウトマウス(PTENKO)13~16週齢(脂肪肝炎期)および35~38週齢(肝発がん期)の肝組織をサンプリングしてLC/MSを用いたリピドミクス解析を行った。その結果、脂肪肝炎期のPTENKOマウスの肝組織中ではリゾホスファチジルコリン16:0およびリゾホスファチジルエタノールアミン16:0、18:2、18:0、20:4が野生型マウスの肝組織より有意に低値であったが、同マウスにグリシンを投与すると脂肪肝炎が軽快し、いずれのリゾリン脂質も対照群のレベルまで有意に上昇した。肝発がん期のPTENKOマウスの肝発がんもグリシン投与によって抑制され、グリシンにより抗腫瘍免疫にかかわるCD8陽性T細胞が増加し、肝組織中のIFNγの発現も亢進した。肝発がん期の肝組織でもリゾリン脂質の傾向は脂肪肝炎期と同様であったが、さらにスフィンゴ糖脂質のセラミドは増加する一方で、ヘキソシルセラミドd18:1/16:0、d18:1/22:0、d18:1/24:0およびラクトシルセラミドd18:1/24:0が減少し、セラミドの代謝が低下している可能性が示唆された。グリシンを投与すると肝発がんが抑制され、2mm以上の腫瘍はほぼ発現しなかった。グリシンによってセラミドの発現亢進は抑制され、セラミド代謝産物は増加した。 また、もう一種類の脂肪肝炎肝発がんモデルとして広く知られるSTAMマウス(ストレプトゾトシン+高脂肪食負荷)を作成し、高脂肪食群と高脂肪食+グリシン投与群を作成した。このモデルに関しても今後リピドミクス解析をはじめとした各解析を進めていく方針である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
肝細胞特異的PTENノックアウトマウスの肝組織を用いたリピドミクス解析に関してはまだ解析途中の段階であるが、脂肪肝炎期からのリゾリン脂質の変化が肝病態に何らかの影響を及ぼしている可能性が示され、さらに肝発がん期においてはスフィンゴ糖脂質のセラミドおよびセラミド代謝産物が脂肪肝炎関連肝発がんに関与している可能性を示すことができた。さらに脂肪肝炎関連肝がんモデル動物であるSTAMマウスを用いた実験をも開始することができた。まだターゲットとなる脂質を同定するところまでには至っていないが、令和5年のマイルストーンの内容は概ね達成できていると考えられたため、概ね順調に推移していると評価した。
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今後の研究の推進方策 |
令和6年度には、昨年度に作成したSTAMマウスの肝臓を用いてリピドミクス解析を行うと共に、各脂肪肝炎肝発がんモデルの肝組織中の抗腫瘍免疫に関連した免疫細胞の発現と各種細胞の比率、サイトカインの分泌機能の変化を、セルソーターおよびFACSを用いて解析する。脂肪肝炎関連肝発がんと抗腫瘍免疫の制御に関わる脂質を同定し、Tリンパ球をはじめとした単核球をセルソーターで単離してin vitroの系を作成する。これら培養細胞に対する脂質の生理活性を解明することによって、抗腫瘍免疫の制御に関与する脂質とその機能を明らかにしていく方針である。
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次年度使用額が生じた理由 |
脂肪肝炎関連肝がんモデルSTAMマウスの実験が年度を跨いだため、年度の移行期間もスムーズに実験を継続できるように消耗品費50,000円を次年度に繰り越した。マウスより摘出した肝臓からの蛋白およびRNA抽出に使用する予定である。
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