研究課題
本研究では、食道拡張障害の起因する食道運動機能障害の実態と分子機構を解明するために、以下の3つの研究を計画した。[1] 食道拡張機能に注目した食道運動機能障害の病態解析:米国Mittal博士が開発したDistention-contraction plot法を用いた食道拡張機能評価において、アジア人(日本人)における正常値を確立するため介入研究を計画した。本研究では、無症状・健康ボランティア30名を対象として日本人におけるPeak DistentionおよびAUC of Distention正常値を明らかにする。初年度は15名の健常人のデータの取得を行った。また、機能性嚥下障害と診断される患者に対して、Distention-contraction Plot法による食道拡張機能評価を行って、食道拡張機能の観点から機能性嚥下性障害の病態を明らかにする研究を計画した。初年度は15名の患者のエントリーを行った。[2] ヒト食道平滑筋特有の収縮弛緩制御の分子機構と破綻機序の解明:食道がん外科切除標本から採取した正常ヒト食道平滑筋組織または食道運動機能障害の代表である食道アカラシアから採取した食道平滑筋組織に対してバルク組織RNAseqを行った。両者を比較したところ、食道アカラシアでは機械受容チャネルの1つであるX分子が著明に低下していることを見出した。[3] 収縮機能および拡張機能を組み入れた食道運動の数理モデル構築と数理モデルを用いた食道運動の包括的理解:神経細胞の活動性および筋細胞の活動性を調節する各種パラメーターを導入したFitsHugh-Nagumo方程式にて食道運動を模倣する数理モデルを開発に成功した。モデルのパラメーターを操作することで、食道正常運動のみならず、食道アカラシア、ジャックハンマー食道および遠位食道痙攣といった食道運動異常症の内圧波形が再現可能であった。
2: おおむね順調に進展している
本研究の目的は、食道拡張障害の起因する食道運動機能障害の実態と分子機構を解明するために、[1] 食道拡張機能に注目した食道運動機能障害の病態解析、[2] ヒト食道平滑筋特有の収縮弛緩制御の分子機構と破綻機序の解明、[3] 収縮機能および拡張機能を組み入れた食道運動の数理モデル構築と数理モデルを用いた食道運動の包括的理解であった。[1]について、健常人と機能性嚥下障害の患者さんに対して、それぞれDistention-contraction plot法による食道拡張機能評価を行う介入臨床研究であるが、初年度はほぼ目標通りとのエントリーができており、進捗はおおむね順調と考える。[2]について、正常食道平滑筋組織と食道アカラシアから取得した食道筋層組織のバルクRNAseqの結果は取得している。既に食道運動障害の原因となる機械受容チャネル分子Xを同定しており、進捗は概ね順調である。[3]について、予備研究で得られていた数理モデルを調整することで、正常の食道運動機能のみならず、各種パラメーターを変化させることで食道運動機能障害も模倣できる数理モデルの開発に成功しており、進捗は概ね順調である。
[1] 食道拡張機能に注目した食道運動機能障害の病態解析:初年度に引き続いて、健常人と機能性嚥下障害患者の合計で各25名までエントリーを行う計画である。広告による健常人のリクルートの推進、地域の関連病院への協力をお願いして機能性嚥下障害患者のリクルートを行う。[2] ヒト食道平滑筋特有の収縮弛緩制御の分子機構と破綻機序の解明:食道運動障害の原因となる機械受容チャネル分子Xの機能解析を計画する。将来的な遺伝子改変マウスによる機能解析を計画するため、まずは正常マウスでの食道運動機能の評価法を立ち上げる。マウス食道は横紋筋で構成されておりヒトのそれとは異なるが、胎児マウスの食道は平滑筋で構成されており、胎児マウス食道での実験系を確立する計画である。[3] 収縮機能および拡張機能を組み入れた食道運動の数理モデル構築と数理モデルを用いた食道運動の包括的理解:研究[1]で遂行したDistention-contraction plot法で可視化した食道拡張機能および食道拡張障害パターンを参考とすることで、初年度で開発した数理モデルのパラメーターを調整することで食道収縮機能のみならず、食道拡張機能をも模倣できる数理モデルへの改良を目指す計画である。
消耗品費用を予定より低くをおさえることができたため、昨年度は当該助成金に残額が生じた。昨年度の残額と今年度の予算を合わせた予算は、すべて遺伝子可変マウスなどの動物購入費用や消耗品費に充てる。
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J Gastroenterol
巻: In press ページ: In press
10.1007/s00535-024-02088-w.