研究課題
この研究では、B型肝炎ウイルス(HBV)が肝細胞上の感染受容体である胆汁酸輸送体NTCPに結合することで生じるリン酸化シグナル伝達経路に焦点を当てている。次世代型の網羅的定量プロテオーム解析と翻訳後修飾プロテオーム解析を組み合わせた定量的リン酸化プロテオミクスを用いて、HBVが結合した肝細胞におけるリン酸化シグナル伝達経路を時系列で詳細に調査した。この研究により、HBVが肝細胞に侵入する分子メカニズムが明らかになり、新規抗ウイルス薬の開発に貢献することが期待される。今年度の研究では、NTCPを安定発現させた培養細胞にpreS1ペプチドを処理し、時間経過とともに培養細胞由来のペプチドサンプルを調製し、質量分析を行った。その結果、HBV感染経路に関与するタンパク質のリン酸化が検出された。また、植物由来のアルカロイドであるコノフィリンは、小胞体に局在する膜変形タンパク質ARL6IP1に特異的に結合し、その機能を阻害することが報告されており、このことから、コノフィリンがHBV感染経路の阻害剤として有望であると考えられた。実際に、コノフィリンをNTCPを安定に発現させた培養細胞にあらかじめ投与したところ、HBV感染を抑制できた。このことから、コノフィリンによる小胞体の膜構造変化がHBVの感染において重要である可能性が示唆された。しかし、ヒト初代肝細胞を用いた実験では、コノフィリンによるHBV感染の抑制効果が弱い結果が得られた。このように培養細胞株と初代肝細胞では異なる結果が得られており、その原因についてはさらなる検討が必要である。
3: やや遅れている
NTCPを安定発現させた培養細胞にpreS1ペプチドを処理して、経時的にペプチドサンプルを調製し、質量分析を行った。得られたサンプルで定量的リン酸化プロテオミクスを行った結果、親水性ペプチドの同定数が少なかったため、より親水性ペプチドを検出できるようなペプチドサンプルの調製法に変更する必要がある。植物由来のアルカロイドであるコノフィリンをNTCPの安定発現培養細胞へあらかじめ投与しておいてからHBVを接種するとHBVの感染を抑制できた。しかし、ヒト初代肝細胞を使った実験では、コノフィリンによるHBV感染の抑制効果が低く、細胞株と初代肝細胞では異なる結果を得た。
リン酸化プロテオミクスの際には、より親水性ペプチドを解析できるように手法を改良して、同定ペプチド数を向上させる。この改良した手法で引き続き培養細胞レベルでリン酸化プロテオミクスを継続して行う。その後、ヒト肝細胞キメラマウス由来の肝細胞にpreS1ペプチドを処理し、経時的にペプチドサンプルを調製しリン酸化プロテオミクスを行う。得られた結果から、HBVの侵入過程に関与すると思われるタンパク質に作用する阻害剤等を使って抗HBV効果を検討する。
本年度に前年度の未実施計画を含めて実施するため
すべて 2023
すべて 雑誌論文 (2件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 2件)
臨床検査
巻: 67 ページ: 1090~1093
10.11477/mf.1542203419
ウイルス性肝炎学2023 : 最新の病態・診断・治療情報
巻: 81-増刊7 ページ: 298~303