研究課題/領域番号 |
23K07455
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
池原 早苗 千葉大学, 大学院医学研究院, 助教 (50598779)
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研究分担者 |
山本 一夫 千葉大学, 大学院医学研究院, 特任教授 (20174782)
吉富 秀幸 獨協医科大学, 医学部, 教授 (60375631)
山口 高志 千葉大学, 大学院医学研究院, 講師 (60626563)
東 和彦 千葉大学, 大学院医学研究院, 技術系職員 (80422260)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2027-03-31
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キーワード | 膵臓の病理 / 膵炎 / BKウイルス感染 / 遺伝子改変マウスモデル |
研究実績の概要 |
本課題では、BKウイルスLarge T (BK-LT) 抗原を膵臓特異的かつドキシサイクリン(DOX)依存的に発現する遺伝子改変マウス(BK-LTマウス)を作製して解析に用いている。これまでの研究で、同マウスは、DOX投与によってBK-LT抗原が膵臓のすべての細胞に誘導され、膵炎が膵管周囲から膵小葉へ向かって進展することを確定できた。このマウスモデルの線維化は、膵炎の顕在化より2週間程遅れて膵管周囲に認められるので、同マウスはヒト慢性膵炎を再現していると考えている。今年度は、その理解を確実にする基盤データの取得を進めた。 研究項目1)超微形態学的解析による膵細胞の障害の解明では、DOXを投与して経時的に回収した膵組織を対象に、膵臓の分泌小胞を検出して膵管上皮での障害発生との関係を検討した。超高分解能電界放出形走査電子顕微鏡(走査電顕)とエネルギー分散型X線解析装置(EDX)を用いて観察する方法を最適化した。特に膵組織に発現している各種タンパク質分子について、抗体染色を利用した金属標識を行ったのちに、走査電顕とEDXで検出・評価する方法を確立している。 研究項目2)膵線維化を進展する機能分子の探索では、DOXの投与によってBK-LTマウスで観察される急性膵炎から慢性膵炎・線維化への変化を捉えるよう、経時的に採材した膵組織のsingle cell RNA-Seq解析を開始している。さらに、ホルマリン固定パラフィンブロックより作成したスライドガラス標本での多重蛍光免疫組織法で、病理組織学的解析の最適化とデータの取得を進めた。一連の検討から、膵炎の発症と進展で出現する多様な細胞を捉え、その変容を見出した。細胞分化マーカーとCK19、alpha smooth muscle actinに対する多重蛍光染色により、膵管周囲から進展する線維化の検討を開始した状況となっている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、ドキシサイクリン(DOX)の投与で膵炎を発症する遺伝子改変マウスを生産し、DOX投与を開始したのちに経時的に回収した膵組織を使用している。 研究項目1)超微形態学的解析による膵細胞の障害の解明では、DOXの投与を行う前のコントロールマウスと、投与開始から2週間後で膵炎の顕在化したマウスの膵組織を用いた。採取したマウス膵組織からホルマリン固定パラフィン包埋(FFPE)薄切切片を作成し、スライドガラスにのせたFFPE薄切切片を超微形態学的に解析している。Prss1を含む分泌小胞は、抗体反応を利用した元素標識を行って金属を集積させることで、超高分解能電界放出形走査電子顕微鏡とエネルギー分散型X線解析装置を用いて、膵細胞の障害を超微形態学的に可視化している。一連の検討から、Prss1を含む小胞が膵細胞の分泌顆粒膜を傷害していることを見出し、このことが膵炎発症のメカニズムとなる可能性を捉えた。 研究項目2)膵線維化を進展する機能分子の探索では、一細胞レベルで遺伝子発現を評価できるsingle cell RNA-Seq(scRNAseq)解析を開始した。これまでに膵炎進行の段階別に回収した膵組織を用いたことで、膵炎の発症と進展に伴って出現する細胞の多様性を捉えるとともに、経時的に多様性の変容を見出すことができた。さらにAnti-alpha smooth muscle actin抗体とCK19抗体による蛍光多重染色に、各種免疫細胞の表面マーカー抗体の染色を重ねて行うことで、scRNAseq解析の結果についての理解を深めるとともに、膵線維化のKey factorとなる候補分子の評価を進めた。
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今後の研究の推進方策 |
2024年度は、2023年度に引き続き基盤データを取得する期間として、研究項目1)超微形態学的解析による膵細胞の障害の解明と、研究項目2) 膵線維化を進展する機能分子の探索を実施する計画である。 超微形態学的解析では、膵臓を構成する細胞の種類ごとに、オルガネラ障害の様相を捉えて整理する。誘導されるPrss1による細胞障害が膵炎発症のメカニズムであることを説明できるデータを取得する。また、BKウイルス感染とヒトの膵炎発症との関連を検証するため、膵炎に関連するヒト膵組織のホルマリン固定パラフィンブロックを選出し、これらを活用した組織アレイの作製と解析を進める。膵線維化を進展する機能分子の探索では、scRNAseq解析を引き続き実施し、膵炎の進展で経時的に多様性が変化していく細胞集団の機能と発現分子の評価検討を進める。さらに、Tomato-RFP発現マウスの骨髄をもつ、DOX投与後に膵炎を発症する遺伝子改変マウスを作製し、DOXの投与によって発症する膵炎の解析を進める。特に、骨髄由来の細胞で線維細胞へと分化する細胞を検索する。なお、骨髄由来で線維細胞へ分化する細胞の検出と解析は、セルソーターによってRFP陽性細胞を回収し、バルクのRNAseqとscRNAseqで行い、線維化を含む膵組織リモデリングを担う分子病理学的なメカニズム解明に挑む。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度は動物実験施設の利用料の上昇がある旨の案内があったため、研究室におけるケージ数の割り当てのうち、DOX投与により作製するBK-LT膵炎マウスの生産を当初の計画より減らした。研究に使用するマウスの匹数を減らしたことで、飼育費の他、投与に使用する薬剤等の購入量を減らしたため、次年度使用額が生じた状況となっている。次年度の実験施設の利用料は、ほぼ確定したことから、本研究を進めるにあたって必要十分な匹数の遺伝子組換えマウスを確保できるよう、飼育スペースの調整を行っている。生産用のマウスについても匹数を確保できたことから、当初の計画どおりの解析をすすめる予定である。
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