研究課題
末梢血T細胞サブポピュレーションの解析:2020年10月から2022年6月の間に広島大学病院で肝細胞癌に対するAtezo+Bev治療を受け、凍結保存された治療前のPBMCが解析可能であった70名の患者を本研究に後方視的に登録した。70例中51例で治療3週間後のPBMCの解析も行った。対照群として18人の健康なボランティアから採取したPBMCも解析した。CCR7+CD45RA+(Tnaive)、CCR7-CD45RA+(Teff)、CCR7+CD45RA-(TCM)、CCR7-CD45RA-(TEM)、およびCD4+CD25+CD127-(Treg)と定義した。多変量解析の結果、ベースラインのCD8+セントラルメモリーT(TCM)細胞の割合が高いことが、無増悪生存期間(PFS)の延長と独立して関連していることが示された。さらに、CD8+エフェクターメモリーT(TEM)細胞の割合が高い患者では、全生存期間(OS)が有意に延長した。結論として、ベースライン時のTCM比率はAtez/Bev療法の有効性の良い指標になるかもしれない。さらに、TEM比率の増加は、治療による潜在的な臨床的利益の早期予測因子となると考えられた。組織学的免疫微小環境の解析:広島大学病院で肝細胞癌に対するAtezo+Bev治療を行い、治療前に肝腫瘍生検を施行した37例を対象として、GeoMxによる空間プロファイリングで同定されたB7H3, Ki67, CD127, Bcl-xLに加え、CTLのマーカーであるCD8の免疫染色を行った。CD127を発現している細胞の多くはCD8陽性細胞であった。腫瘍内のKi67が陽性の症例では初回効果判定、最良効果判定ともに奏効の割合が低かった。その他のマーカーについてはIHCによるバリデーションコホートでは、治療効果との有意な関連は認められなかった。
2: おおむね順調に進展している
末梢血リンパ球の解析については上記の通り成果が得られ、研究成果を学会(第45回日本肝臓学会西部会)、研究会(第8回Gastro-PLUS)、国際学術誌(Cancers (Basel) . 2024 Mar 28;16(7):1328. )に報告した。病理学的な検討についても当初の目的としたバリデーションコホートでの検証は終了した。
末梢血リンパ球の検討では興味深い結果が得られたが、血中蛋白等の方がより簡便に調べることができ、臨床現場での実装に近づけることができると考えた。今後は、末梢血リンパ球のプロファイルや、治療効果アウトカムとの相関のある末梢血中のマーカーを探索する予定である。また、病理学的なマーカーについては、今回Ki67以外の有望なマーカーは同定できなかったが、現在、多施設共同研究で免疫治療を行った肝細胞癌症例の空間発現プロファイリングも進めており、そこで同定された有望なマーカーについて、再度バリデーションコホートで検証することを予定している。
並行して行っている研究の目的で購入した試薬の残りが使用でき、学会旅費が他の予算から支払うことができ、今年度の使用予定の予算が節約できた。この予算を次年度の試薬(免疫染色試薬、FACS用抗体等)の購入や、成果発表のための学会参加費や旅費、論文校正のために使用することにより、次年度の研究の更なる発展が見込まれ、成果をより広く公表できると考える。
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Cancers (Basel)
巻: 16 ページ: 1328
10.3390/cancers16071328