研究課題/領域番号 |
23K07481
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研究機関 | 札幌医科大学 |
研究代表者 |
神津 英至 札幌医科大学, 医学部, 講師 (60596609)
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研究分担者 |
久野 篤史 札幌医科大学, 医学部, 教授 (30468079)
佐藤 達也 札幌医科大学, 医学部, 准教授 (40592473)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 心筋代謝 / 心不全 / 糖尿病 / サルコペニア / アミノ酸 / 酢酸 / AMP deaminase |
研究実績の概要 |
申請者らはラット心筋細胞において、分枝鎖アミノ酸(BCAA)の代謝律速酵素である分枝鎖α-ケト酸脱水素酵素(BCKDH)がミトコンドリアのみならず筋小胞体に高発現し、AMP deaminase 3(AMPD3)との直接結合にて活性修飾を受けていること、AMPD3-BCKDHの発現不均衡が糖尿病性心筋症の発症に関与していることを最近報告した。本研究においてこれまで、BCKDHの筋小胞体における高発現およびAMPD3との直接結合がマウスの心筋でも再現されることを確認した。さらに、AMPD1が主要なアイソフォームとされる骨格筋において、下肢挙上による筋萎縮の誘導がAMPD3の発現を有意に上昇させること、BCKDHがAMPD1とではなくAMPD3と直接結合していることを同定した。これらの結果から、筋組織のBCAA代謝におけるAMPD3の特異的な役割が示唆された。 AMPD3全身ノックアウトマウスは、非負荷時には明らかな表現型を認めなかったが、横行大動脈縮窄(TAC)による心不全の誘導が増悪する傾向にあった。一方、下肢挙上による筋萎縮の誘導においては、AMPD3欠損により前脛骨筋およびヒラメ筋の筋重量減少が抑制される傾向がみられた。これらの結果から、AMPD3の欠損により誘導される代謝変化の影響は、心筋と骨格筋では異なる可能性が示唆された。 臨床研究では、心不全症例において末梢血アミノ酸プロファイリングを行い、BCAAを含む予後不良なアミノ酸プロファイルが、骨格筋の脂肪変性と関連することを見出した。 また、糖尿病性心筋症におけるAMPD3の関与について、申請者らのこれまでの報告をまとめ、総説を発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
心筋・骨格筋において、BCKDHがミトコンドリアマトリックスのみならず筋小胞体にも高発現しており、さらにAMPD3の結合によってその機能が修飾されている可能性という新規知見が、マウスでも再現された。さらに、in vivoにおいてAMPD3欠損がTACによる心不全誘導に対して促進的に働く傾向を同定した。研究開始当初のAMPD3欠損が心不全発症に対して保護的であるという仮説とは逆であったが、AMPD3によるアミノ酸代謝の制御が、心不全発症に対して生理的に重要な役割を担っている可能性が示唆される。 心不全臨床例におけるアミノ酸代謝バイオマーカーの同定についても、末梢血でのアミノ酸プロファイリングの有用性を見出し、次年度に論文掲載予定である。冠静脈洞採血が行えた心不全症例の登録も順調に進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
次年度はTACによる心不全誘導に対してAMPD3欠損が及ぼす代謝変化を、アミノ酸代謝に着目して解析する。我々は既報にて、SGLT2阻害薬による心不全抑制効果と心筋アミノ酸代謝の変化が強く関連することをメタボロミクスにて同定している。したがって、AMPD3欠損の影響は、アミノ酸代謝が活性化する条件下でより顕著となる可能性がある。TAC誘導心不全におけるSGLT2阻害薬の心筋代謝および心機能に対する効果が、AMPD3欠損によってどのように影響を受けるかを解析する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
TACによる心不全モデル作成の確立に当初の想定よりも時間がかかったため、モデル確立後に想定していた実験が初年度には遂行できなかった。現在は心不全モデルの誘導が安定して可能となっている。今年度は、SGLT2阻害薬のアミノ酸代謝活性化作用および心保護作用におけるAMPD3の関与を心筋メタボロミクスにて解析する予定である。そのための試薬購入および受託費として、次年度に使用する予定である。
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