研究課題/領域番号 |
23K07529
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
馬場 志郎 京都大学, 医学研究科, 助教 (60432382)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 福山型筋ジストロフィー / iPS細胞 / 心不全 |
研究実績の概要 |
福山型筋ジストロフィー(FCMD)の責任遺伝子Fktnによってコードされるフクチンタンパクは、細胞膜の外表面に発現するα-ジストログリカン(α-DG)に、リビトールリン酸を結合させることで糖鎖を伸長する。 細胞外基質ラミニンはα-DGに結合する糖鎖と親和性を持つため、FCMDにおける骨格筋障害は、糖鎖形成不全に由来する細胞骨格の構造的・機械的脆弱性に由来するという説が有力である。本研究ではまず、iPS細胞由来心筋(iPS-CM)における病態再現の可能性を検証するため、福山型筋ジストロフィー患者から作成したiPS細胞(F-iPS)、F-iPSにおいてFktn遺伝子の異常をCRISPR-Cas9で修復したiPS細胞(C-F-iPS)、コントロールiPS細胞(C-iPS)から心筋細胞を分化させ、糖鎖発現について蛍光免疫染色で確認した。すべての細胞で心筋特異的なTroponin Tとともに糖鎖は発現していたが、F-iPSではC-F-iPS, C-iPSと比較して発光輝度は低下しており、in vitroでFCMDにおける糖鎖形成不全が再現された。次に、細胞外基質との接着不全により心筋細胞の形態変化が起こるかを検証したが、単細胞レベルではすべてのiPS-CMにおいて形態的な差異はなく、細胞サイズについて違いは見られなかった。さらに機能的な変化について検証するため、各iPS-CMにおける拍動数を記録したが、すべてのiPS-CMについて拍動数の有意な違いはなかった。心筋症の発症年齢が高いことから、体動などの心筋刺激要素が心筋症の発症因子となる可能性を考慮し、交感神経β刺激薬であるイソプロテレノールを加えた条件で各細胞株に関する拍動数、電位の変化について記録するとともに、細胞内のカルシウム濃度変化について検証中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
疾患再現性を確認する目的で糖鎖形成について検証したが、糖鎖を含むタンパク構造の脆弱性があり、抽出に難渋した。また、iPS-CMでは、幼弱性に起因すると考えられる糖鎖の発現低下があり、上記糖鎖の染色結果を得るために時間と工夫を要した。さらに、C-iPSの心筋分化能が低く、十分な実験材料が得られず、結果の比較・検証が困難であった。
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今後の研究の推進方策 |
C-iPSの心筋分化について、細胞株を変え、さらに分化傾向の高い継代数に絞ることで分化効率が上昇した。現状では各細胞株に由来する心筋細胞において、無刺激での形態的・機能的な違いは認められていない。よって、交感神経β作動薬などの薬剤を負荷した上での機械的な脆弱性、機能的な違いについて細胞外電極などを用いた評価を行い、さらに並行して心筋症に関連する細胞死を誘導するようなタンパクの発現やカルシウム濃度の変化などを確認する方針である。
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