研究課題/領域番号 |
23K07710
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研究機関 | 日本医科大学 |
研究代表者 |
清水 章 日本医科大学, 大学院医学研究科, 大学院教授 (00256942)
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研究分担者 |
桑原 尚美 日本医科大学, 医学部, テクニカルスタッフ (00599011)
高熊 将一朗 日本医科大学, 医学部, 助教 (00963836)
寺崎 美佳 日本医科大学, 医学部, 講師 (50372785)
三井 亜希子 日本医科大学, 医学部, 教授 (50544417)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 質量分析 / 腎生検病理検体 / レーザーマイクロダイセクション / LC-MS/MS法 / 膜性腎症 / 抗原蛋白質 / 腎沈着症 / 免疫複合体型腎疾患 |
研究実績の概要 |
本研究は、診断のために行われた腎生検病理検体からレーザーマイクロダイセクションで標的組織領域を単離し、質量分析(LC-MS/MS)法により微量蛋白質群を解析し、免疫複合体の抗原蛋白や疾患特異的蛋白質の解析や、腎沈着症の沈着物の構成蛋白質を解析し、疾患の確定診断を行い、腎疾患の新たな疾患概念や疾患分類を提唱することを目的にしている。今年度は、自施設内の腎生検で診断された膜性腎症症例のうち、一次性および二次性膜性腎症の症例で、想定される原因と膜性腎症との関連に焦点を当て、原因抗原からの解析を進めている。特に悪性腫瘍に関連した膜性腎症の原因抗原と悪性腫瘍における発現を検討している。また、臨床症例に質量分析を行っている 1) 蜂刺され後の膜性腎症症例の原因抗原について質量分析で解析をしたものの、抗原蛋白の同定には至らなかった。 2) 腎生検で膜性腎症と半月体形成性糸球体腎炎が示された症例でEXT1/2を同定し、膜性ループス腎炎にANCA関連血管炎および抗GBM-GNが同時に発症した症例として報告した。3) 出産後に蛋白尿が増悪した膜性腎症の質量分析でEXT1/2を同定し、潜在性ループス関連膜性腎症として治療を行い症例報告した。4) 慢性炎症性脱髄性多発神経炎症例に発症した膜性腎症の原因抗原がcontactin であることを免疫染色で証明し、質量分析でも確認が可能か検討している。膜性腎症以外の症例では、1) ステロイド療法により血液透析を離脱したcryofibrinogenの症例、2) DNAJB9陰性の線維性糸球体腎炎の症例、3) ネフローゼ症候群を呈する IgG腎症の補体活性化経路について、糸球体の質量分析法を用いて同定が可能かの検討を行っている。膜性腎症を主体に免疫複合体型疾患の抗原蛋白の同定および臨床症例に対し免疫複合体の抗原や沈着物の質量分析を行い、検討を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は 糸球体腎炎の原因抗原の同定と腎沈着症の沈着物の沈着機序の解明をすることを目的に、LC-MS/MS法を用いて腎臓内に存在する微量蛋白質を解析している。本年度は、一次性や二次性の膜性腎症の腎生検検体をLC-MS/MS法で解析を行い、PLA2Rに加え、THSD7A, NELL-1, EXT1/EXT2, NCAM1, Sema3B, PCDH7などのすでに知られている抗原の出現頻度と原因疾患との関連についての検討や、新規抗原の検索を進めた。LC-MS/MS法解析が確定診断に直結する疾患や診断に有用な糸球体疾患の検討を進めており、LC-MS/MS法解析により自己免疫疾患で抗原になることが知られているEXT1/EXT2を同定したことにより膜性ループス腎炎の存在を確認もしくは 潜在性ループス腎炎を考える根拠となった症例の症例報告をした。また、Cryofibrinogen腎症の診断を誘導し、治療により透析療法の離脱を行えた症例の報告や、DNAJB9陰性のFibrillary腎炎の新しい疾患群の提唱の報告を行なった。免疫染色で考察した補体活性化経路や慢性炎症性脱髄性多発神経炎症例の膜性腎症の抗原蛋白のcontactin1の同定や、蜂刺され後の膜性腎症での新しい抗原の同定を試みた。さらに特異蛋白質が関連していると考えられる希少な症例についても検討をすめている。また、腫瘍関連膜性腎症、原因抗原が明らかではない免疫複合体型糸球体腎炎、糸球体沈着症などの解析すべき症例の抽出も進めている。これらを総合的に評価し、概ね順調に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
免疫複合体型糸球体腎炎の抗原を同定し、疾患の病態の解析や疾患のバイオマーカーの開発を積極的に進める。当施設における一次性や二次性の膜性腎症でのLC-MS/MS用いたPLA2R, THSD7A, NELL-1, EXT1/EXT2, NCAM1, Sema3B, protocadherin 7 (PCDH7)の出現頻度と原因疾患との関連をまとめる。また、二次性膜性腎症で、免疫染色で証明されている myeloperoxidase (MPO)、Contactin1 (CNTN1), lecithin-cholesterol acyltransferase (LCAT), HBeAgやHBsAgに対し LC-MS/MS法で同定可能かを検証する。また、腫瘍関連膜性腎症、原因抗原が明らかではない immune complex型糸球体疾患の腎生検検体からの単離糸球体をLC-MS/MS法で微量蛋白質群を解析し抗原の同定を試みる。糸球体沈着症の特異なorganized structureや crystalなどの構造を有する沈着物の組成の解析を進める。これらの研究成果をまとめ報告する。
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次年度使用額が生じた理由 |
使用予定の研究費には、腎生検検体を用いて、レーザーマイクロダイセクションによる対象組織の抽出とLC-MS/MS法による質量分析のための消耗品や研究のための情報取集のための研究会や学会への参加費を含んでいる。十分な研究結果が出ておらず、今年度に予定していた国際学会の参加を取りやめた。使用計画としては、免疫複合体型糸球体腎炎や糸球体沈着症の解析には質量分析データの裏付けの光顕免疫染色、蛍光抗体法染色、電顕所見との整合性を明らかにする必要がある。これらの画像を自由に扱える大容量のPCやデータ保存用の周辺機器、画像ソフトウエアなどを整備する必要がある。次年度は、免疫複合体型糸球体腎炎や腎沈着症の抽出と解析を積極的に進めるとともに、PCやデータ保存用の周辺機器、画像ソフトウエアなどの整備を進める。
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