研究課題/領域番号 |
23K07728
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研究機関 | 東京薬科大学 |
研究代表者 |
吉川 大和 東京薬科大学, 薬学部, 准教授 (20274227)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | ラミニン / 基底膜 / 糸球体 / ネフローゼ症候群 |
研究実績の概要 |
糸球体のろ過装置は、ポドサイト、血管内皮細胞、糸球体基底膜により構成され、血液から原尿を生成する。ろ過装置の細胞および基底膜分子の機能不全は、血漿蛋白質を漏出するネフローゼ症候群を引き起こす。ろ過装置の糸球体基底膜は、IV型コラーゲン(α3α4α5)、ラミニン-521、ニドゲンおよびヘパラン硫酸鎖を持つパールカン/アグリンからなる膜状の構造体である。ラミニン-521は、α5鎖,β2鎖,γ1鎖のサブユニットからなるヘテロ三量体であり、基底膜構成分子と相互作用して基底膜の形成に関与する領域およびポドサイト、血管内皮細胞との接着に関与する領域に大きく分かれる。ラミニン-521の細胞接着は、主にα5鎖のC末端側に存在するLGドメインによって担われている。ラミニンとの接着に関与する受容体は、インテグリンと非インテグリン受容体に大きく二分され、非インテグリン受容体としてシンデカン、ジストログリカンが知られている。LGドメインは、さらに5つのモジュール(LG1-5)からなり、linker配列を挟んで、LG1-3およびLG45に分けられる。これまでに、LG45モジュールは非インテグリンによって認識されることが明らかになっていた。しかしながら、各α鎖を比較する研究が行われていないため、α5鎖LG45モジュールに特徴的な機能が十分に明らかになっていなかった。研究実績では、ラミニンα1-5鎖LG4-5モジュールに対する組換え蛋白質を作製し、シンデカン(SDC)結合、ジストログリカン(DG)結合、ラミニンとの結合について明らかにした。その結果、α5鎖LG45モジュールは、SDCとの結合性を十分に示したが、DGとの結合性は弱いことが明らかとなった。また、α5鎖LG1-3モジュールを含むE8断片に結合し、分子内相互作用の可能性を示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
糸球体基底膜は、細胞外マトリックスからなる膜状の構造体であり、血液中のアルブミンなど血漿蛋白質を維持しながら、老廃物をろ過する選択的フィルターとして機能している。糸球体基底膜の構成分子であるラミニンβ2鎖は、ろ過機能に必須な分子である。しかしながら、ラミニンβ2鎖による糸球体基底膜のろ過機能および蛋白尿を伴う二次性ネフローゼ症候群における役割は十分に明らかになっていない。本研究では、ラミニンβ2鎖によるろ過メカニズムの分子基盤を解明し、さらに糖尿病性腎症におけるラミニンβ2鎖の役割の解明を目指している。2023年度は、(1) ラミニンβ2鎖のpH依存的なヘパラン硫酸鎖結合部位の同定および結合親和性の定量化および(2) 糖尿病性腎症マウスにおけるラミニンβ2鎖の発現と局在の解明を行った。(1)では、ラミニンβ2鎖のヘパラン硫酸鎖結合部位を同定するため、ラミニンβ2鎖のドメインごとの組換えタンパク質の作製を行った。組換えタンパク質の産生では、組換えタンパク質の安定発現293細胞の大量培養による方法から、Expi293細胞を用いた浮遊および無血清培による大量培養の方法に切り替え、効率的な作製が可能になった。(2)では、糖尿病を発症するKKAyマウス(5週齢のメス)に高脂肪高糖食を与え、糖尿病性腎症を誘導した。モデルマウスの尿を経時的に採取し、高度な蛋白尿が確認できた時点で、腎臓の摘出を行った。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度に引き続き、(1) ラミニンβ2鎖のpH依存的なヘパラン硫酸鎖結合部位の同定および結合親和性の定量化および(2) 糖尿病性腎症マウスにおけるラミニンβ2鎖の発現と局在の解明を継続する。さらに(3) ラミニンβ2鎖バリアントにおけるヘパラン硫酸結合親和性の定量化、および(4) ラミニンβ2鎖のマクロファージに対する細胞接着活性の解明を行う。(1)では、β2鎖の各ドメインをβ1鎖で交換したキメラ組換え蛋白質およびビオチン化ヘパラン硫酸鎖を用いたELISAによる結合アッセイを行う。さらに、生体分子間相互作用測定装置(Dianthus)を用いてβ2鎖の各ドメインとヘパラン硫酸鎖の結合親和性を中性および弱酸性で定量化し、pH依存的なヘパラン硫酸鎖結合の分子基盤を明らかにする。(2)では、腎臓の免疫染色を行い、糖尿病性腎症におけるラミニンβ2鎖の発現および局在を明らかにする。(3)では、(1)と同様に生体分子間相互作用測定装置(Dianthus)を用いて、β2鎖バリアントのヘパラン硫酸結合親和性を定量化する。糖尿病性腎症では、糸球体内にマクロファージの浸潤が認められる。ラミニンβ2鎖は、インテグリンα4β1と結合することから、浸潤するマクロファージの足場となっている可能性が高い。(4)では、糖尿病性腎症のマウス腎臓からマクロファージの調製を行い、ラミニンβ2鎖のマクロファージに対する細胞接着活性を明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由:年度をまたいで抗体作製が行われたため、その費用を繰越金とした。2023年度は英文校閲の依頼する段階にまで至らなかった。
使用計画:2024年度は、繰越金を含めた物品費により、抗体作製費用として使用する。また、繰越金を含めた人件費・謝金により、英文の校閲などに使用する。
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