研究課題
ハンセン病は多様な臨床像を呈するのが特徴で、同一の原因菌であるにもかかわらず、これほど多様な臨床症状は、これまで宿主のらい菌に対する免疫応答の違いによるものと理解されてきたが、その違いが実際には何に起因するのかは未だわかっていない。ハンセン病は臨床病型から大きく多菌型と少菌型の2型に分類される。本研究では、ハンセン病の多菌型と少菌型に注目し、肉芽腫形成の違いが何に起因するのかを探索することを目的とする。当施設に残存しているハンセン病の多菌型と少菌型のそれぞれの皮膚病変の病理組織(FFPE)からmRNAを抽出し、トランスクリプトームデータから2群間比較を行った。ハンセン病67検体から解析可能なmRNAを取得できたのは7検体(多菌型4例、少菌型3例)であった。2群間比較の結果、FTLや鉄関連に代謝する遺伝子(CD163,HMOX1など)の多くが、多菌型群で多く発現していた。また、脂質代謝に関連する遺伝子(APOE,APOC1,CD36など)や、それらの転写因子であるPPARGも多菌型群に多く発現していることがわかった。らい菌に感染したマクロファージでは、フェリチンとして細胞内に鉄が貯蔵される。実際に、複数の細胞内の鉄の濃度を上昇させる遺伝子が多菌型に多く発現していた。これは、増殖に必須な元素である鉄の細胞内濃度を高めることで、らい菌の増殖に有利な環境を作り出していると考えられる。また、らい菌がマクロファージに取り込まれると、PPARγを含む脂質代謝関連遺伝子が活性化され、脂肪滴の蓄積を誘導し、その脂肪滴内にらい菌が生存する。らい菌の表面は厚い脂質の外膜で覆われており、蓄積された脂質を利用してその外膜を生成することから、脂肪滴の蓄積は、らい菌の増殖に有利に働くと考えらえる。これは、多菌型の病理像の主体が、脂質に富んだ泡沫細胞の肉芽腫であることにも一致する。
2: おおむね順調に進展している
ハンセン病の検体数は限られているものの、2群間比較により、FTLなどの鉄関連に代謝する遺伝子の発現が多菌型で優位に高いことを明らかにすることができた。来年度は免疫染色などを予定しており、概ね順調の進捗状況と考える。
2023年度の研究により明らかになった候補遺伝子について、ハンセン病の病変部組織での免疫染色を行い、蛋白発現の局在と強さについて検討し、病態へ関与する意義を確認する。遺伝子発現解析により選択した候補遺伝子について、病態的意義があると考える遺伝子に関して、多菌型と少菌型患者における遺伝子多型の有無を、トランスクリプトーム解析の遺伝子配列より探る。病型の原因や結果となる組織球で発現する遺伝子群のほか、リンパ球、肥満細胞などの免疫担当細胞に発現する遺伝子についても、両群で比較解析し候補遺伝子を抽出する。また、これまでに複数のGWASによりハンセン病関連遺伝子として抽出されたCARD9, NOD2, HLA-C, HLA-DR-DQ, PARK2,LACC1などについて、多菌型と少菌型で違いがあるのかを確認する。また、結核や非定型抗酸菌感染症、病理所見が類似するサルコイドーシスなどの遺伝子発現データとも比較したい。
本研究費について、RNA抽出、トランスクリプトーム解析に使用し、残金が発生している。次年度は、2023年度に候補遺伝子として抽出した遺伝子について、実際の皮膚組織における蛋白発現の局在と強さについて検討するために免疫染色を行う。免疫染色に必要な抗体等の試薬購入に充てる。また、疾患コントロールとして、皮膚結核や非結核性抗酸菌感染症や、組織学的に非常に類似するサルコイドーシスなどの皮膚組織についてもトランスクリプトームデータを取得し、比較解析するために使用する。
すべて 2023
すべて 雑誌論文 (10件) (うち査読あり 4件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (7件) (うち国際学会 4件)
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