研究課題/領域番号 |
23K07753
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研究機関 | 近畿大学 |
研究代表者 |
森山 麻里子 近畿大学, 薬学総合研究所, 准教授 (40595295)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 傷跡 / 線維芽細胞 / 瘢痕 / scRNA-seq |
研究実績の概要 |
当該年度は、傷跡が残りやすいFoxO3aノックアウト(KO)マウスと野生型マウスに全損欠損創を作成し、創傷治癒過程(創傷7日後)の真皮よりシングルセルを調整し、シングルセルRNA-seq(scRNA-seq)を行った。当初は線維芽細胞のみをセルソーターにより単離してscRNA-seqを行う予定であったが、セルソーターによる単離では死細胞混入の割合がどうしても多くなってしまい、きれいなシークエンスデータを得られない恐れがあることが判明した。そこで、創傷治癒過程の皮膚より、いかにきれいなシングルセルを調整するか検討を重ねた結果、Liberase Enzyme Cocktailにより皮膚をdissociationした後、赤血球の溶血を行い、MACSを用いて死細胞除去を行うという方法がベストであることを突き止めた。この方法により、生細胞率は95%を超え、細胞数も十分量得られることが出来た。この細胞を用いて約10,000個の細胞よりシークエンスデータを得た。得られたデータは大変きれいであり、信頼性のあるものであった。 そこで、細胞のアノテーションをおこなったところ、線維芽細胞と思われるフラクションが判明した。そこでその線維芽細胞フラクションを詳しく解析したところ、いくつかのフラクションで、FoxO3aKO由来細胞の比率が高くなっている、もしくは低くなっているフラクションが見つかっている。また、そのフラクションに共通している遺伝子群もいくつか見つかってきている。現在はその遺伝子を指標に、バリデーションを行っているところである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題では、「傷跡が残りやすくなるFoxO3aノックアウト(KO)マウス」を利用して、真皮細胞のシングルセルRNA-seq解析を行い、FoxO3aKOマウスで特異的に増減する線維芽細胞亜種を特定し、瘢痕を残しやすい線維芽細胞の亜種を明らかにしたいと考えている。また、当該年度には以下のことを明らかにしようと計画していた。 ・シングルセルRNAシークエンス解析による細胞集団および遺伝子同定 上記課題に関しては、当初の予定では、創傷7日目に創傷部位を回収し、真皮をLiberaseなどで分散した後、生細胞かつCD31-CD45-Ter119-Tie2-EpCAM-の線維芽細胞フラクションをセルソーターで単離し、シングルセルRNAシークエンス解析に供しようと考えていた。しかし、上記の方法では死細胞の混入が多くなってしまうこともあり、予備検討をやり直すこととなった。最終的には線維芽細胞だけでなく、皮膚全ての細胞をscRNA-seqに供することで、細胞調整の問題は回避出来た。その結果scRNA-seqはキレイなデータを取得でき、細胞集団の同定に至った。遺伝子同定に関しては、より正確な解析が必要となるが、おおまかなデータは得られている。その遺伝子群の中には、瘢痕形成に関与することが報告されている遺伝子も含まれており、かなり正確なデータであると考えている。 以上のことから、本研究課題はおおむね順調に伸展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
解析により同定した特異的マーカーを用いて、マウス背部皮膚切片の免疫染色、もしくはin situハイブリダイゼーションを行い、シングルセルRNAシークエンスの解析結果の検証を行い、見いだした線維芽細胞亜種が創傷治癒時に真皮のどの部位に多く存在しているかも明らかにしたい。また、同定したマーカーを用い、マウス皮膚組織から線維芽細胞亜種をセルソーターにより分離する方法を確立する。同時に、野生型とFoxO3aKOマウス組織でのこれら亜種の構成割合が本当に変化しているのか、検証を行いたい。 また、上記で確立した分離法で分離した線維芽細胞亜種の性状解析を行いたい。瘢痕形成に大きく関わると考えられるコラーゲンゲル収縮能、コラーゲン産生量、コラーゲンゲル内増殖活性について解析をする。また、FoxO3aKOマウスで発現が変動していた遺伝子のノックダウンもしくは強制発現実験を行い、同様の性状試験を行いたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究計画当初は、線維芽細胞のみを単離し、そのheterogeneityをscRNA-seqで調べる予定であった。しかし、皮膚細胞全てにおいてscRNA-seqをかけることとなり、当初より余分に解析費用がかかることとなった。また、経時解析が必要となることも判明し、2024年度に違う時系列の細胞によるscRNA-seqを行う予定である(外注予定)。そのため、2024年度にさらなる解析を行うため、次年度使用額を多めに計上している。
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