研究課題/領域番号 |
23K07756
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研究機関 | 国立感染症研究所 |
研究代表者 |
奥村 香世 国立感染症研究所, 安全実験管理部, 主任研究官 (70415561)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2027-03-31
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キーワード | 抗酸菌 / 迅速診断法 |
研究実績の概要 |
研究計画初年度である2023年度は、Mycobacterium marinumを特異的に検出する系の確立を中心に実験を進めた。 M. marinumは、皮膚非結核性抗酸菌症を引き起こす代表的な菌種である。本菌の遺伝子診断には、外毒素のマイコラクトン遺伝子、rpoB、IS2404、hsp65等の遺伝子を検出する方法が用いられている。しかし、皮膚非結核性抗酸菌症の原因菌は本菌以外にも多数知られており、原因菌種を特定するには前述の遺伝子検出のみでは十分でなく、シークエンス解析も行う必要がある。これらの検査に要する時間および解析機器の確保は臨床現場では困難な場合が多く、より簡便なM. marinum特異的検出法の確立が期待されるため、本研究を計画・着手した。 はじめに、検出に使用する標的遺伝子を決定するため、M. marinumやその他の皮膚抗酸菌症原因菌の比較ゲノム解析を実施し、候補となる標的遺伝子を複数選抜した。さらに、抗酸菌以外の皮膚感染症原因細菌が類似した遺伝子を保有しないことを確認した後、選抜した標的遺伝子配列情報を用いて検出に必要な反応系を構築した。皮膚からの分離報告がある抗酸菌を中心に10種の抗酸菌から調製した細胞破砕液を用いて当該遺伝子の検出を試みたところ、M. marinumが特異的に検出できた。また、M. marinum臨床分離株24株を用いて同じ実験を行った場合も、同様の結果が得られた。以上の解析から検出する標的遺伝子が定まったため、反応温度の最適化や十分な判定結果を得るのに必要な反応時間等、条件検討を進め、反応条件についても確定した。 今後は抗酸菌以外の皮膚感染症原因細菌等の細胞破砕液を用いて、非特異的な反応が認められないかを確認すると同時に、より多くのM. marinum臨床分離株を用いて検出を実施し、本検出法の精度を検討する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2023年度は、迅速診断法の特異性検証と反応条件の最適化を計画当初から予定しており、Mycobacterium marinumを特異的に検出する系の確立を目標に掲げ実験を進めた。 具体的には、1) 検出に用いる標的遺伝子の選抜、2) 鋳型DNAの抽出方法および使用するDNA量、反応温度や反応時間等、種々の条件下での増幅産物を比較し、反応条件の最適化を図る、3) M. marinumを特異的に検出できるか、他の抗酸菌および抗酸菌以外の細菌を用いて同様の解析を実施する、以上3点の解析を予定した。このうち、抗酸菌以外の細菌を用いての検証は菌株の入手に時間を要したため、来年度以降の実施に持ち越しとなったが、研究計画で予定していた内容は概ね実施済であり、予想される良好な結果も得られた。
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今後の研究の推進方策 |
前述の方法で確立した検出法の検出精度を評価するため、実際のM. marinum臨床分離株、あるいはM. marinum以外の皮膚から分離された非結核性抗酸菌臨床分離株や抗酸菌以外の皮膚感染症原因細菌を用いて同様の解析を実施する。ある程度の菌株数のデータが収集できた時点で、学会発表や論文化による成果報告を行う。 次に、M. marinum細胞内増殖機構を明らかにするため、関与が予想される遺伝子を欠損させた変異株の作製を試みる。欠損株に加えて、遺伝子欠損株に標的遺伝子を再導入した相補株を作出し、これらの遺伝子改変株が得られた際は、培養細胞およびマウス個体等を用いて感染実験を試みる。種々の環境下で候補遺伝子の有無が細菌の生存率、増殖速度に影響するか調べる。これらの結果を通じて、M. marinumの細胞内増殖機構の詳細を解明する。 なお、研究は予定通り順調に進捗しており、現段階での大幅な計画変更は予定していない。
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次年度使用額が生じた理由 |
検出法の条件検討が予定よりも順調に完了し、当初計上していた試薬の購入数が若干減少したため。また、当初購入予定であった菌株の購入手続きに予想以上に時間を要し、来年度以降の購入に変更になったため。
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