研究課題
成人T細胞白血/リンパ腫(ATL)は、レトロウイルスであるヒトT細胞白血病ウイルス1型(HTLV-1)が感染したCD4陽性T細胞が腫瘍化する疾患である。これまでに感染細胞に発現するプロウイルス遺伝子HBZと、感染後に獲得されるCARD11変異に代表されるT細胞抗原受容体(TCR)-NF-κB経路の遺伝子異常が協調し、ATLの発症前段階といえる状態を作り出すことを見出している。本研究では、発症前段階からATL発症の間に存在するイベントを明らかにし、ATL発症マウスモデルの作成を目指す。また、ATL細胞が依存する生存シグナルの多様性に着目し、ATLに対するプレシジョンメディシンの概念実証(proof of concept)を試みる。テーマ1:ATL発症前段階から発症に必要なイベントの解明と、ATL発症マウスモデル作成・・・HBZとCARD11変異の両者を有する2重異常マウスの研究で急性転化に必要であることが示唆されたNOTCH1変異、または、HBZとCARD11変異により誘導されるBATF3/IRF4/HBZ転写ネットワークを増強し更なるNF-κB経路の活性化をもたらすと推測されるIRF4変異を、2重異常CD4陽性T細胞へ導入した。3~4重遺伝子異常を発現するCD4陽性T細胞の動態を解析中である。テーマ2:ATL細胞が依存する生存シグナルの多様性に合わせたプレシジョンメディシンのコンセプト確立・・・収集したATL細胞株17種類の遺伝子変異を明らかにした。TCRNF-κB経路阻害剤(MALT1阻害剤)、新規臨床承認薬であるEZH1/2阻害剤、HDAC阻害剤、既存抗がん剤VCRの単独または併用による in vitro 増殖抑制試験を行い。各々の腫瘍の変異プロファイルと、各阻害剤への反応を比較検討した。
2: おおむね順調に進展している
テーマ1:ATL発症前段階から発症に必要なイベントの解明と、ATL発症マウスモデル作成・・・ATLの遺伝子異常を模した4重遺伝子異常T細胞の作成、表現系解析、機能解析に着手できている。テーマ2:ATL細胞が依存する生存シグナルの多様性に合わせたプレシジョンメディシンのコンセプト確立・・・ATL細胞株に対しては、TCRNF-κB経路阻害剤(MALT1阻害剤)、新規臨床承認薬であるEZH1/2阻害剤、HDAC阻害剤、既存抗がん剤VCRのいずれも単独では概ね耐性が認められるが、複数の細胞株で併用による著明な増殖抑制効果が認められた。変異プロファイル、発現プロファイルに応じた併用療法を開発することで、効率的な腫瘍制御ができる可能性が確認できた。
テーマ1:ATL発症前段階から発症に必要なイベントの解明と、ATL発症マウスモデル作成・・・ATLの遺伝子異常を模した4重遺伝子異常T細胞のin vivoモデルの表現系解析、幹細胞性を有する腫瘍分画の同定、機能解析を行う。テーマ2:ATL細胞が依存する生存シグナルの多様性に合わせたプレシジョンメディシンのコンセプト確立・・・変異プロファイルが明らかなCas9導入ATL細胞株を作成する。各々の薬剤投与下でゲノムワイドなCRISPR-Cas9 knockoutスクリーニングを行い、薬剤耐性機序のキーとなる分子(新規治療標的分子)の同定、およびキー分子が既存薬のターゲット分子であるかの確認を行う。これらの作業により合理的な併用療法のコンセプトを確立する。
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すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 1件)
Haematologica
巻: 108 ページ: 2178~2191
10.3324/haematol.2022.281510