研究課題
同種造血細胞移植は血液悪性腫瘍等に対する根治療法だが、全症例の40-50%に発症する移植片対宿主病(graft-versus-host disease: GVHD)と原病再発の克服が更なる成績向上にとって重要である。それぞれの合併症は輸注されたドナーT細胞に原因があり、ドナーT細胞の活性化が持続的かつ強力であれば腫瘍細胞を根絶できる一方でGVHDが誘導され、T細胞の活性化が弱ければGVHDの発症は少ないが再発は多いというジレンマが存在する。そのため、如何にGVHD発症を制御し最大限にGVT効果を誘導できるかが重要である。T細胞以外にGVT効果を誘導する細胞としてnatural killer (NK)細胞や樹状細胞(dendritic cell:DCs)がある。NK細胞はGVHDを増悪せず、抗原特異的受容体非依存性に細胞障害活性を示し抗腫瘍効果を発揮する。一方、DCsのサブタイプの一つであるBDCA3+DC (マウスではCD8α+Dc)はcross-presentationに特化した抗原提示細胞として、特に腫瘍抗原のCD8+T細胞への提示により強力な抗腫瘍効果を誘導するが免疫抑制作用もある。近年、腫瘍免疫の増強効果が期待されるNK-DC cross-talkが注目され、GVHDの誘導なしで再発を減少させる可能性が期待される。我々はインフラマゾームの一種、NOD-like receptor family pyrin domain containing 6 (NLRP6)が活性化T細胞で発現が増強し、主にZAP-70-Erkシグナリングを制御することを発見した。一方、NLRP6欠損骨髄キメラを用いた検討では、ホストの血液細胞由来抗原提示細胞におけるNLRP6の発現はGVHD増悪に影響を与えないことを確認している。NLRP6はNK細胞にも発現していることが知られており、NK細胞の活性化にZAP-70が関係していることから、本研究ではNLRP6のNK-DC cross-talkに与える影響を検討し、GVHDとGVT効果の効果的な分離法の開発を行うことを目的とする。
3: やや遅れている
上記の研究実績の概要に記載の通り、ドナーT細胞におけるNLRP6の発現はZAP-70-Erkシグナリングを増強することで、GVHDが増悪することを発見した。しかし、GVT効果は動物実験モデルでほぼ同等であることを確認した。研究開始当初は同等のGVT効果の誘導はドナーNK細胞が関与し、ホスト樹状細胞とのcross-talkが重要と考えていたものの、更なる解析により動物モデルでは腫瘍量を調節して同種移植を施行した場合、NLRP6欠損T細胞においても、当初の想定以上に抗腫瘍効果が十分存在していることが判明したため、現在T細胞におけるNLRP6-ZAP-70-ERKシグナルの制御におけるGVHD減弱効果及びGVT増強効果に焦点を当てて研究を進めている。
今後、ZAP-70阻害薬によるドナーT細胞の活性化の制御並びにGVT効果の誘導を期待して、マウス同種骨髄移植モデルおよびin vitroでの研究を進めている。また、同阻害薬使用時のGVT効果の増強について、NK細胞及びホストの樹状細胞への影響を検討し、同阻害薬の臨床応用を目指した研究を行う予定である。
次年度使用額3835円は抗体及びマウス費用支払いには不十分であったため、次年度に繰り越すこととした。
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血液内科
巻: 87 ページ: 419
日本内科学会雑誌
巻: 112 ページ: 1950