研究実績の概要 |
EZH1あるいはEZH2を酵素サブユニットとするポリコーム抑制複合体2(Polycomb Repressive Complex 2, PRC2)(それぞれEZH1-PRC2、EZH2-PRC2とする)は、H3K27me3修飾を介して遺伝子発現を抑制する。骨髄細胞の異形成を特徴とする骨髄異形成症候群(myelodysplastic syndrome: MDS)では、PRC2の機能低下が高頻度に認められている。我々の研究により、PRC2機能低下型MDSにおいて残存H3K27me3が必須であることを見出した[Aoyama et al., iScience, 2018;Aoyama et al., Leukemia, 2021]。本研究では、PRC2機能喪失型MDSにおける残存H3K27me3の制御機構の解明及び、新規創薬標的分子の同定を試みている。2023年度、近位依存性ビオチン化酵素を用いたプロテオーム解析とCRISPRノックアウトスクリーニングにより、その制御機構に関わる分子を複数同定することに成功した。バリデーションの結果も良好であった。さらに、CRISPR-Cas9システムにより同定した分子のノックアウト細胞を樹立し、次世代シーケンス解析を用いて、残存H3K27me3を触媒するEZH1-PRC2に与える影響を解析した。クロマチン免疫沈降シークエンス(ChIP-seq)をおこなったところ、同定した分子のノックアウトはEZH1のクロマチンからの解離を引き起こすことがわかった。また、RNA-シークエンス(RNA-seq)の結果から、EZH1のクロマチンからの解離は、近傍の標的遺伝子の発現の抑制を解除することもわかった。以上から、同定した分子は、残存H3K27me3の制御に重要で、有力なPRC2機能喪失型MDSに対する創薬標的分子であると考えられた。
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