研究課題
Th2細胞は喘息などのアレルギー疾患において中心的役割を担う細胞であり、アレルゲン特異的な記憶Th2細胞が長期にわたって維持され、発症組織(肺など)に常駐することは、臨床的にアレルギー疾患が慢性に経過する主原因と考えられるが、その機序には不明な点が多い。研究代表者らは、プロテアーゼ抗原吸入による気道炎症・Th2感作の誘発から一定期間経過した後に、肺組織に局在するCD4陽性細胞に依存して炎症が迅速に再惹起される新規モデルを構築した。本研究課題では、同モデルを解析して肺組織に長期生存する記憶Th2細胞の維持・常駐化と活性化の機序を解明する。この一連の機序に関与する各因子を同定し、アレルゲン再曝露における局所での免疫記憶応答を抑制するアレルギー疾患根治のための新規介入治療の標的を提案することを目的とする。当該年度の解析では、メモリーがすでに形成されている条件下での抗原再惹起による気道炎症は、抗原のプロテアーゼ活性に依存しないことを明らかとした。プロテアーゼ抗原による気道炎症モデルではプロテアーゼ依存的に放出されるIL-33の重要性が報告されているが、上記モデルの抗原再惹起相がプロテアーゼに依存しないということは、同モデルでは①IL-33は関与していない②IL-33はプロテアーゼ非依存的に放出される、のふたつの可能性が考えられた。そこで現在は同モデル惹起相でのIL-33の役割について解析を進めている。また、病原性記憶Th2細胞で報告のある、肺におけるメモリーTh細胞の維持へのIL-7の関与について上記モデルでの検証も行っている。これらの項目と並行してTIGIT発現履歴を利用したメモリーT細胞単離法の開発を進めている。
2: おおむね順調に進展している
研究計画調書に掲げたR5年度の目標の内、「② In vivoモデルの特徴に関する解析」中の「プロテアーゼ依存性」についてはすでに明らかとした上で、「プロテアーゼ曝露とTh2増強因子」と関連して、メモリーが成立した条件下での気道でのIL-33の役割についての解析がすでに進行している。さらに、「③ CD4陽性TRMの維持・常駐化・活性化因子の特定」中の「維持因子」に関する解析でも、CD4T細胞の肺での維持へのIL-7の貢献についてのデータを蓄積しつつある。「① CD4陽性TRMを検出・単離する新規方法の確立」についても、TIGIT発現履歴とメモリーマーカー陽性T細胞との関係について、プレリミナリーなデータを蓄積しつつある。以上から、現在までの進捗状況はおおむね順調であると判断した。
今後は、TIGIT発現履歴を利用したメモリーマーカー陽性T細胞の単離・検出法を早急に確立した上で、単離したメモリーマーカー陽性T細胞を用いたin vitro実験により、その抗原特異性、抗原・サイトカイン刺激に対する応答性、細胞表面分子の発現パターン等を明らかにする予定である。さらに、抗原特異的メモリーが成立している条件下でのIL-33の放出と役割を明らかとする。これらの課題に一定の結果が得られたと判断した時点で、肺組織における2次リンパ組織様の構造に関する解析に着手し、これとTIGIT発現履歴によるメモリーT細胞の単離・検出法を組み合わせて、肺に存在すると予想される2次リンパ組織様の構造中でのメモリーTh細胞の局在を明らかにする。
R5年度には主に惹起相応答のプロテアーゼ依存性やTIGIT発現履歴とメモリーT細胞に関する検討を中心として実験計画を遂行した。その結果、当初当該年度に予定していた実験の内、「CD4陽性TRMの維持・常駐化・活性化因子の特定」に関するいくつかの実験を次年度以降に持ち越す形となった。次年度使用額の使用計画としては、CD4陽性TRMを肺に維持することに関与が予想される因子に対する中和抗体・阻害剤の購入費や、その他の消耗品費、得られた結果を発表する際の投稿費用や英文校正費等に使用する予定である。
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