研究課題/領域番号 |
23K07921
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研究機関 | 滋賀医科大学 |
研究代表者 |
北川 善紀 滋賀医科大学, 医学部, 助教 (00444448)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | ヘニパウイルス / インターフェロン / IFN / 免疫回避 / 抗IFN能 / アクセサリー蛋白質 |
研究実績の概要 |
本研究は、近年発見された3種類の新興ヘニパウイルス(Mojiang virus、Ghana virus、Cedar virus)を対象に、それぞれのアクセサリー蛋白質が備える宿主インターフェロン(IFN)システムを妨害する能力(抗IFN能)とその分子機構を明らかにし、その能力を喪失させた弱毒ワクチンをデザインすることを目的とした。 ヘニパウイルスのゲノムには、VやW、I、Cタンパク質と呼ばれる複数のアクセサリー蛋白質がコードされ、独特な転写翻訳システムにより発現される。初年となる今年度はまず、これらの遺伝子を人工合成し、それぞれの哺乳動物細胞用発現ベクターを作成した。 これらのアクセサリー蛋白質が備える抗IFN能の全体像を把握するために、RNAウイルスに対してIFNを産生誘導するシグナル伝達経路(IFN産生経路:TLR3経路とRIG-I/MDA5経路、TLR7経路)とIFN応答経路(I型とII型、III型)に対する阻害活性を、再構築系を用いて網羅的に解析した。その結果、Mojiang virusとGhana virusのV蛋白質には共に、RIG-I/MDA5経路とTLR7経路を特異的に阻害する活性が、またMojiang virusのC蛋白質(MojV-C)にはII型IFN応答経路に対する阻害活性が備わることが分かった。 上記活性のうち、MojV-Cの阻害活性は近縁ウイルスでは報告されていない新規の抗IFN能であったことから、その分子学的な阻害機構の解析を行った。II型IFN応答経路には、受容体やチロシンキナーゼ、転写因子などの複数のシグナル分子が関わる。そこで、これらのシグナル分子との相互作用を検討したところ、MojV-Cは転写因子STAT1と特異的に結合することが分かった。これらの結果から、MojV-CはSTAT1を標的としている可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の研究計画の通り、新興ヘニパウイルスのアクセサリー蛋白質が有する抗IFN能の全容を把握するために、RNAウイルスに対する宿主IFNシステムに対抗する活性を網羅的に解析した。その結果は、「研究実績の概要」に記述したように、ヘニパウイルスのVやC蛋白質の一部に、それぞれIFN産生経路やIFN応答経路を妨害する活性が備わることを確認した。特に、Mojiang virusのC蛋白質(MojV-C)が有する、II型IFN応答経路阻害活性は、これまでに近縁ウイルスでも報告されていない新規活性であったことから、優先的に阻害機構を解析した。その結果、MojV-Cは同経路に関わる転写因子STAT1と特異的に結合することを見いだした。以上の点から、本年度の研究がおおむね順調に進展していると判断される。
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今後の研究の推進方策 |
これまで進めてきたMojV-CによるII型IFN応答経路を阻害する分子機構について、引き続き、より詳細な阻害機構を検討していく。具体的には、他シグナル分子との相互作用や、翻訳後修飾、核移行、プロモータ領域への結合に対する影響などを解析することで、MojV-CがSTAT1に対してどのように作用しているのかを検証する。一方、Mojiang virusとGhana virusのV蛋白質については、RIG-I/MDA5経路とTLR7経路に対する阻害機構がまだ明らかではないため、今後、標的分子の探索などを試みる。 また、当初の研究計画に従って、各アクセサリー蛋白質の抗IFN活性に関わる機能ドメインの探索を行う。抗IFN活性を有するアクセサリー蛋白質の欠損変異体および点変異体を複数作製して、各変異体の抗IFN活性や標的分子との結合能、各シグナル伝達ステップへの影響を調べ、それらの相関性を検討する。この解析によって、各シグナル経路阻害に関わる機能ドメイン(アミノ酸)を同定する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
参加予定だった学会学術集会が学内行事の日程と重なり、参加を見合わせたため。当該研究費は、来年度以降の旅費と、不足が予想される物品費の一部として使用する。
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