研究課題/領域番号 |
23K07929
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
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研究分担者 |
早川 智 日本大学, 医学部, 教授 (30238084)
相澤 志保子 日本大学, 医学部, 准教授 (30513858)
高田 和秀 日本大学, 医学部, 助教 (60848711)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2027-03-31
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キーワード | 風疹ウイルス / ジカウイルス / 新型コロナウイルス / TGF-β1 / グルコースストレス / 酸化ストレス / 小胞体ストレス / 絨毛細胞 |
研究実績の概要 |
妊娠中のジカウイルス感染は、先天性ジカウイルス感染症を引き起こす可能性が知られているが、その垂直感染のメカニズムには不明な点が多い。近年、我々は、妊娠中の胎盤へのジカウイルス感染に影響を与える可能性のある要因を探ることを目的として研究を行ってきたところ、TGFβ1がヒト不死化絨毛細胞におけるジカウイルス感染の受容体の発現を誘導し、感染率が上昇することを見出した。さらに、最近の研究により、低グルコースストレスがヒト不死化絨毛細胞における風疹ウイルス感染を促進することが明らかになったため、ジカウイルス感染においてもグルコースストレスの影響を検討した。ヒト不死化絨毛細胞を低グルコース濃度(0.5mM)の培養液で24時間、または高グルコース濃度(25mM)6時間培養後に18時間の低グルコース濃度の培養液で培養した後、ジカウイルスを感染させた。しかし、風疹ウイルスとは異なり、ヒト不死化絨毛細胞におけるこれらのグルコースストレスによるジカウイルスの感染率は変わらなかった。同様にヒト不死化絨毛細胞に対してグルコースストレスを誘導して、SARS-CoV-2(新型コロナウイルス)を感染させたが、感染率は変わらなかった。 過酸化水素により誘導される酸化ストレスがヒト不死化絨毛細胞の風疹ウイルス感染に及ぼす影響を検討した。これまでに、酸化ストレスと妊娠高血圧症候群、妊娠糖尿病、胎盤機能不全症、早産、流産などの妊娠合併症との関連が報告されている。ヒト不死化絨毛細胞を実験に用いた。これらの細胞に過酸化水素250μM、1時間、または過酸化水素100μM、24時間添加し、酸化ストレスを誘導した。その後、風疹ウイルスを感染させた。感染24時間後にフローサイトメトリー法により感染率を測定した。その結果、以上の過酸化水素処理によって、ヒト不死化絨毛細胞の酸化ストレスが誘導され、風疹ウイルス感染率が上昇した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
最近の我々の研究により、低グルコースストレスがヒト不死化絨毛細胞における風疹ウイルス感染を促進することが明らかになったため、ジカウイルス感染とSARS-CoV-2(新型コロナウイルス)感染においてもグルコースストレスの影響を検討した。同様にヒト不死化絨毛細胞に対して低グルコースと高グルコースの濃度でグルコースストレスを誘導して、ウイルスを感染させたが、感染率は変わらなかった。ジカウイルスとSARS-CoV-2の感染では、絨毛細胞のグルコースストレスは感染率に影響しないことが示唆された。
また、ヒト不死化絨毛細胞のウイルス感染に影響を与える酸化ストレスの研究について、予備実験を行い、過酸化水素によってヒト不死化絨毛細胞株(Swan71とHTR-8/SVneo細胞)に酸化ストレスが誘導され、風疹ウイルスの感染率が上昇することが示された。さらに、TGF-β1のヒト不死化絨毛細胞における風疹ウイルス感染に与える影響についての研究も開始したため、初年度に予定した実験は概ね順調に進行しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
ヒト不死化絨毛細胞のウイルス感染に影響を与える酸化ストレスの研究:予備実験により、過酸化水素(100uMまたは250uM)によってヒト不死化絨毛細胞株(Swan71とHTR-8/SVneo細胞)に酸化ストレスが誘導され、風疹ウイルスの感染率が上昇することが示された。今後の研究計画では、改めて適切な過酸化水素の濃度(150uM~175uM)で、ヒト不死化絨毛細胞に酸化ストレスを誘導することを確認し、風疹ウイルス感染の実験を行う予定である。 同様にジカウイルスとSARS-CoV-2(新型コロナウイルス)についても、以上の処理条件を使用して、ヒト不死化絨毛細胞の酸化ストレスを誘導し、それらのウイルス感染に及ぼす影響を検討する。
低グルコースストレスがヒト不死化絨毛細胞の風疹ウイルス感染を促進するメカニズムについての研究:最近の研究により、低グルコースストレスがヒト不死化絨毛細胞における風疹ウイルス感染を促進することが明らかになった。この研究の結果から、グルコースストレスが誘導されるとGRP78とGRP94タンパク質の発現が上昇し、細胞のウイルス感受性が上昇する可能性がある。 そこで、CRISPR/CAS9法、または強制発現させる系を用いて、ヒト不死化絨毛細胞のGRP78とGRP94をノックアウトした後、風疹ウイルスに感染させる実験を行う予定である。
TGF-β1のヒト不死化絨毛細胞における風疹ウイルス感染に与える影響についての研究:近年の研究により、ヒト不死化絨毛細胞をTGF-β1下で培養した後に、ジカウイルスを感染させるとジカウイルス感染率が上昇することが明らかになったため、風疹ウイルス感染においてもTGF-β1の影響を検討する。そのために、ヒト不死化絨毛細胞を10 ng/mLのTGF-β1を添加した培地で24~48時間で培養し、風疹ウイルスを感染させ、感染率を評価する。
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