研究実績の概要 |
バセドウ病による甲状腺機能亢進症は、血中に甲状腺刺激ホルモン(TSH)受容体(TSHR)を刺激する自己抗体(TSAb)が出現し、制御不能な甲状腺ホルモンの過剰分泌によって引き起こされる。抗甲状腺薬、放射性ヨウ素内用療法、手術といった現状の治療法は過去70年間ほとんど変わっておらず、薬は副作用が多く、後2者では生涯にわたる甲状腺ホルモン補充療法が必要となる。バセドウ病の免疫生物学的な病態の解明は、バセドウ病を治療するための新規治療の開発につながる。現在開発中の治療法として、生物学的製剤や小分子、ペプチド療法などがあるが、特に、TSHRを標的としたアプローチは最も直接的であり、免疫系の撹乱や過度の抑制も回避できるという利点がある。本研究の目的は、TSAbがTSHRを刺激する分子メカニズムの詳細を解明し,近い将来臨床応用につながる可能性があるこれらの治療法の開発に貢献することである。本年度はまず以下の検討をした。バセドウ病患者(未治療,治療中,寛解,アイソトープ治療後,甲状腺手術後)検体を用いて2種類のキットを用いて測定したTRAb値におけるcAMPバイオセンサを用いた新規TSAbキットを用いて測定したTSAb値の陽性率を検討した。TSAbの測定はリアルタイム法で行い,30分から240分までの各測定値と該当するTRAb値とを比較した。TSAb(30分値)の陽性率は、R社TRAbの1.0-1.5 IU/Lで46%,1.5-2.0 IU/Lで75%,A社TRAbの1.0-2.0IU/Lで39%、2.0-3.1 IU/Lで68%であった。30分から240分までにおけるcAMPの立ち上がりや降下速度は検体ごとに異なっており,その結果TSAb値の陽性率は測定タイミングで変化した。TRAbがカットオフ値未満でも半数前後のバセドウ病患者血清においてTSAbが陽性であり,有用であると考えられた。
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