研究課題/領域番号 |
23K07986
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研究機関 | 山梨大学 |
研究代表者 |
金 然正 山梨大学, 大学院総合研究部, 特任助教 (00345266)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 貯蔵脂質代謝 / ELKS / 液―液相分離 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、貯蔵脂質代謝における足場タンパク質ELKSの分子機能を明らかにすることである。ELKSは中枢神経系および、肝臓、脂肪組織など、ユビキタスに分布する分子量120~150kDaの足場タンパク質である。神経細胞においてはプレシナプスのアクティブゾーン超分子複合体の構成因子で、非神経細胞ではLL5alpha/betaやPHDLBと複合体を形成し、分泌因子の輸送・分泌制御に関与する。これまでの研究で、神経細胞においては、同じファミリータンパク質であるCASTと共にタンパク質複合体の液―液相分離を制御することを明らかにした。さらに、ELKSは、Rab3、Rab12、Rab18と共に液滴を形成し、Rab3においては、ミドル領域のcoiled coilドメインが活性型Rab3と結合することを明らかにした。これらの結果から、ELKSによる液滴形成が活性型Rab3の安定性を高める可能性を示唆するものと考えられる。 一方、脂肪細胞選択的ELKSノックアウト(KO)マウスの解析においては、高脂肪食による非アルコール性脂肪肝の発症率が野生型より著しく高いことを示した。Rab18が脂肪滴の大きさを決定するとの報告に基づき、これらの結果は、ELKS欠損脂肪組織における貯蔵脂質管理システムの破綻に起因する可能性を考え、Cre recombinaseを発現させELKS欠損細胞におけるオレイン酸誘導脂肪滴の大きさを計測した。しかし、ELKS欠損細胞と野生型細胞間の脂肪滴の分布および大きさに有意な差は見られなかった。 今後、インスリンシグナル依存的脂肪滴の形成について詳細な解析を行う計画である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
ELKS欠損によるオレイン酸誘導脂肪滴のサイズ変動が起こらなかった。近年、Rab18による脂肪滴形成の大きさ制御に関する否定的な報告もみられる。さらに、オレイン酸誘導脂肪滴形成に関わる経路との因果関係が十分に解明されていないため、糖質および脂質代謝に大きく影響するインスリンシグナルに着目する必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
生体内において余剰エネルギーの貯蔵脂質変換はインスリンシグナル経路が中心的な役割を果たしている。脂肪組織と肝臓に蓄える貯蔵脂質の量はインスリンシグナル強度と正の相関関係にある。脂肪細胞選択的ELKS欠損マウスにおける高脂肪食誘導脂肪肝の発症率上昇は、ELKS欠損による脂肪細胞のインスリンシグナル低下と、その結果生じた貯蔵できなかった中性脂質の肝臓への蓄積が主な原因であると考えられる。この仮説を検証するために、ELKS欠損細胞におけるインスリンシグナル伝達機構を詳細に解析する必要がある。従って、糖質および脂質代謝に大きく影響するインスリンシグナルに着目し、ELKSの欠損細胞におけるインスリンシグナルを検討する。インスリンシグナルはIR/IRSノード、PI3 kinase―AKTノードにより調節される。これまでと同様に、Cre recombinaseを利用したELKS欠損線維芽細胞を用いて、インスリン刺激後のIRS1のリン酸化とAKTの活性化をウエスタンブロッティング法で評価する。さらに、GFPと融合させたGLUT4発現プラスミドをELKS欠損線維芽細胞に導入し、インスリン刺激後のGLUT4の細胞表面への移行を共焦点レーザー顕微鏡を用いて可視化し、定量評価する。また、インスリン刺激後のオレイン酸誘導脂肪滴形成を LipidTOX染色を用いて定量する。マウス脂肪組織由来の脂肪前駆細胞を初代培養し、インスリン存在下における脂肪細胞分化を形態学的観察、脂滴染色、脂質含量測定などを用いて評価する。個体レベルでは、腹腔内インスリン投与後に脂肪組織と肝臓を採取し、ウエスタンブロッティング法を用いてIRS1とAKTのリン酸化レベルを比較検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
ほぼ計画通りに予算を執行したが110円端数が残った。 次年度は最終年度なので、計画にのっとり消耗品等に使用していく。
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