研究課題/領域番号 |
23K07994
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研究機関 | 自治医科大学 |
研究代表者 |
海老原 健 自治医科大学, 医学部, 准教授 (70362514)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 非アルコール性脂肪肝 / SREBP1 / VCP / ATPase |
研究実績の概要 |
現在、非アルコール性脂肪肝の確立した治療法は無い。転写因子SREBP1cは肝臓における中性脂肪合成の主要制御因子であるが、SREBPが機能するためにはN末端の切断的活性化が必要である。SREBP1cの活性化機構についてはこれまで未解明であったが、最近申請者らはAAA ATPaseの一つであるvalosin-containing protein (VCP)が関与していることを明らかにした(J Biol Chem 2022)。しかし、SREBP1cの活性化におけるVCPの ATPase活性の意義は依然不明である。エネルギー過剰はATP供給を増加させVCPの ATPase機能を介したSREBP1cの活性化を促進することが予想される。そこで本研究ではSREBP1cの活性化および非アルコール性脂肪肝発症におけるVCPが有するATPase活性の意義解明を目指す。SREBP1c活性化および非アルコール性脂肪肝発症におけるATPaseとしてのVCPの意義解明は、VCPを標的とした新しい非アルコール性脂肪肝の治療法開発に繋がるものと期待される。申請者らはこれまでにVCP特異的ATPase阻害薬(KUS94、KUS121)の合成に成功している(特許番号2010-172467)。そこでKUS94あるいはKUS121を高脂肪食負荷により誘導した肥満(DIO)マウスへ連日投与したところ明らかな脂肪肝の抑制が確認された。また、申請者らはこれまでに696番目のリシンをアルギニンに置換することによりATPase活性が消失したVCP変異(K696R)マウスの作製にも成功している。今後、VCP特異的ATPase阻害薬(KUS94、KUS121)およびK696Rマウスを用いて非アルコール性脂肪肝発症におけるVCPが有するATPase活性の意義解明を目指す。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
VCP特異的ATPase阻害薬であるKUS94あるいはKUS121を8週間の高脂肪食負荷により誘導した肥満(DIO)マウスへ4週間連日投与したところ肝臓の中性脂肪蓄積は生食投与群と比較して明らかな抑制を認めた。また組織学的にも脂肪肝の抑制が確認された。そこで次に696番目のリシンをアルギニンに置換することによりATPase活性が消失したVCP変異(K696R)マウスを用いた検討を試みた。ホモのK696Rマウスは生直後に死亡することからK696Rヘテロマウスを対象に8週間の高脂肪食負荷を実施した。しかしながら同じく8週間の高脂肪食負荷を実施した野生型マウスと比較してK696Rヘテロマウスの肝臓における中性脂肪含量に明らかな差は認められなかった。また、組織学的検討においても野生型マウスとK696Rヘテロマウスの間に明らかな変化は認められなかった。VCP特異的ATPase阻害薬の投与実験とATPase活性が消失したVCP変異(K696R)マウスを用いた検討で異なる結果となった原因として今回用いたマウスがヘテロ変異マウスであったことが挙げられる。K696Rヘテロマウスでは理論上、VCPのATPase活性は少なくとも50%残存しており、SREBP1cの活性化にVCPのATPase活性は内因性の50%で十分である可能性が考えられる。今後、K696Rヘテロマウスの肝臓におけるSREBP1cのN末端の切断的活性化について確認するとともに、HepG2などの肝細胞培養株を用いたK696R変異のSREBP1cの活性化に及ぼす影響を検討する。
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今後の研究の推進方策 |
我々はこれまでに肝臓におけるSREBP1cの活性化にAAA ATPaseファミリー蛋白であるVCPが関与していることを明らかにしてきたが、SREBP1cの活性化におけるVCPの ATPase活性の意義は不明であった。今回、SREBP1cの活性化におけるVCPの ATPase活性の意義を明らかにするためにVCP特異的ATPase阻害薬であるKUS94あるいはKUS121を食事誘導性肥満(DIO)マウスへ投与したところ、脂肪肝の明らかな抑制が認められた。このことは、VCPのATPase活性がSREBP1cの活性化に重要であることを示唆している。今後、KUS94あるいはKUS121を投与したDIOマウスの肝臓におけるSREBP1cのN末端の切断的活性化について検討する。一方、ATPase活性が消失したVCP変異をヘテロで有するK696Rヘテロマウスを用いた検討では、8週間の高脂肪食負荷を行っても野生型マウスと比較して脂肪肝進展の明らかな抑制は認められなかった。原因として今回用いたマウスがヘテロ変異マウスであったことが挙げられる。K696Rヘテロマウスでは理論上、VCPのATPase活性は少なくとも50%残存しており、SREBP1cの活性化にVCPのATPase活性は内因性の50%で十分である可能性が考えられる。今後、K696Rヘテロマウスの肝臓におけるSREBP1cのN末端の切断的活性化について確認するとともに、HepG2などの肝細胞培養株を用いたK696R変異のSREBP1cの活性化に及ぼす影響を検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
今回、SREBP1cの活性化におけるVCPの ATPase活性の意義を明らかにするためにVCP特異的ATPase阻害薬であるKUS94あるいはKUS121とATPase活性が消失したVCP変異(K696R)マウスを用いて検討を実施した。KUS94あるいはKUS121の食事誘導性肥満(DIO)マウスへの投与では予想通り脂肪肝の進展は生食投与群と比較して明らかに抑制されていた。一方、K696Rマウスを用いる実験ではK696Rマウスはホモで生直後に死亡することからK696Rヘテロマウスを用いたが、予想に反して高脂肪食負荷による脂肪肝は野生型マウスと比較して明らかな差を認めなかった。このため、マウスを用いた実験を一時中断し、培養細胞を用いる検討を優先することとなった。このため、当初予定の支出が減少することとなった。今後、K696R変異によるSREBP1cの活性化に及ぼす影響を培養細胞を用いて検討する予定であ理、この意義が確認された後、またマウスを用いた実験を実施する。
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