研究課題/領域番号 |
23K08011
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研究機関 | 山口大学 |
研究代表者 |
田部 勝也 山口大学, 大学院医学系研究科, 准教授 (00397994)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 膵β細胞 / 脱分化 / Wfs1遺伝子 / 糖尿病 / Wolfram症候群 |
研究実績の概要 |
糖尿病モデルマウスにおける膵β細胞不全の成因としてβ細胞系譜障害とそれに続く脱分化が明らかにされ、ヒトの糖尿病でも注目されている。本研究は、脱分化を明瞭に示すウォルフラム症候群のモデル動物Wfs1欠損マウスにおける脱分化誘導機構と鍵分子の同定を目的とする。高血糖を呈さない若齢Wfs1欠損マウスの単離膵島を用いたRNA-sequenceより小胞体ストレス関連遺伝子の発現亢進、β細胞系譜遺伝子群の発現低下および幹細胞および内分泌前駆細胞遺伝子の発現亢進を確認した。組織レベルでも前駆細胞マーカーであるNeurog3、Aldh1a3およびCD81の出現を確認した。β細胞をYFPで永久標識し系譜解析を行ったところ、Wfs1欠損β細胞が進行性にインスリン産性能を失い、小胞体ストレス応答分子であるBip発現とeIF2αのリン酸化が減少した。すなわち、インスリン産性能を失った脱分化β細胞における小胞体ストレスの軽減が推察された。また、ATAC-sequenceにおいて、インスリン遺伝子、系譜マーカーである転写因子MafAやPdx1遺伝子の転写調節領域におけるクロマチン構造変化が明らかになった。一方、Wfs1欠損マウスのβ細胞ではストレス応答分子Txnipの発現が増強しており、脱分化誘導におけるTxnipの役割を明らかにするためにWfs1:Txnip二重欠損マウス(DKO)を樹立した。このマウスでは脱分化抑制とともにインスリン分泌能が維持され、遺伝的系譜解析において機能的β細胞の保持が示された。以上の結果より、Wfs1欠損マウスでは小胞体ストレス亢進と関連しβ細胞脱分化が誘導され、その過程でTxnipが鍵となる役割を担っていることが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
作業仮説に矛盾しない研究成果を得ており網羅的ゲノム機能解析を計画通りに進めることができた。細胞内エネルギー代謝変化に基づく脱分化機構とそこでのTxnipの役割の解析にも着手している。以上より、研究を遅滞なく進められており概ね順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
現時点で研究計画に修正を要す点はななく計画に従い研究を進めていく。脱分化誘導機構について小胞体ストレスによる細胞内エネルギー代謝への影響に焦点をあて解明を行う。単離膵島におけるATP産生能とともに酸化的解糖、脂肪酸代謝、アミノ酸代謝および代謝呼吸をフラックスアナライザーを用いて解析しWfs1欠損β細胞におけるエネルギー代謝変化とエネルギー基質特異性を解明する。さらに、エネルギー代謝異常に対するTxnip欠損の効果を解明し、脱分化抑制との因果関係を明らかにする。一方、β細胞脱分化に対するGLP-1の効果を系譜解析を行い明らかにし、膵組織におけるNeurog3, Aldh1a3、MafAの発現をTxnipの発現変化とともに解析する。また、独自に構築した2型糖尿病患者の外科切除膵組織アーカイブを用いて脱分化細胞の病理学的特性と非内分泌細胞への細胞運命転換を解析し希少疾患であるウォルフラム症候群と2型糖尿病におけるβ細胞の病態の共通性を解明する。
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次年度使用額が生じた理由 |
その他として計上した予算についてほぼ予定通りに使用した。一方、研究が順調に進展したため分子生物学的試薬や動物飼育費として予定した支出を抑えることが可能であった。さらに、網羅的解析では委託解析を行う予定であったが、施設内機器を使用することにより実験費用を大幅に抑えることが可能となった。次年度において細胞培養および分子生物学試薬購入と動物飼育費用に充て実験の効率化とともに当初予定していなかった実験を行うなどにより研究の拡充を図る。また、論文の出版費用にも充てる予定である。
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