研究課題
1.複合睡眠障害モデル(睡眠の質低下モデル)の病態解析に関する研究:C57BL/6 マ ウ ス に SLEEP FRAGMENTATION CHAMBER Model 80391 (Lafayette Instrument, IN)を用いて、1日3時間睡眠をランダムに許容する複合睡眠障害を4週間負荷したマウスにおいては、定時に3時間睡眠を許容した睡眠欠乏マウスに比較して、疼痛閾値の低下が著明に遷延化していた。また、この疼痛閾値低下の遷延化は前帯状皮質の神経活動の活性化と相関していた。そこで前帯状回にアデノ関連ウイルスベクターを注入し、錐体ニューロン特異的なプロモータ制御下に外来のGタンパク質(hM4D(Gi), DREADD)を発現させた。合成リガンドであるCNOを定期的に腹腔投与し、前帯状回錐体ニューロンの活動を一定の期間持続して抑制すると、複合睡眠障害による前帯状皮質の神経活動活性化は完全に抑制され、この変化は疼痛閾値低下の遷延化を抑制した。さらに複合睡眠障害による疼痛閾値の遷延化はα2δ-1阻害薬により抑制され、この変化も前帯状皮質の神経活性化抑制効果と相関していた。これらの結果により、複合睡眠障害による睡眠の質低下による行動変容の一つである疼痛閾値低下の遷延化は、前帯状皮質の神経活動活性化を介すると考えられた。本研究成果は現在論文執筆中である。2.肥満・HFpEFモデルに対する両睡眠障害負荷の影響:肥満・HFpEFモデルを既報に基づいて(Nature 2019; 568, 351-356)、8週齢C57BL/6マウスに高脂肪食とL-NAME投与併用により作製し、その表現型を解析した。15週齢において、心重量の増加と血中ANPの有意な上昇が確認され、HFpEFの早期病態に合致したモデルが作成できたと考えている。
2: おおむね順調に進展している
本研究課題の目的の一つは、睡眠の「質」低下による自律神経機能への影響を制御する脳内ネットワークを解析することである。2023年度は睡眠の質低下をもたらす複合睡眠障害負荷による行動変容として、「疼痛刺激に対する閾値低下」をとりあげ、その中心的な脳内制御系として情動による交感神経活性化への関与が報告されている前帯状皮質の重要性を示すことができた。前帯状回にアデノ関連ウイルスベクターを注入し、錐体ニューロン特異的なプロモータ制御下に外来のGタンパク質(hM4D(Gi), DREADD)を発現させ、合成リガンドであるCNOを定期的に腹腔投与し、前帯状回錐体ニューロンの活動を一定の期間持続して抑制する実験系が確立できた。本研究成果は現在論文執筆中である。来年度は本実験系を用いて、睡眠の質低下による交感神経系の制御と前帯状皮質の関与を、視床下部内側核c-fos発現、褐色脂肪組織のUCP-1発現、TH免疫染色の点から検討する。二つ目の重要な目的は睡眠の質低下が心機能に及ぼす影響を肥満・HFpEFモデルを用いて検討することである。2023年度の実績のように、肥満・HFpEFマウスモデルはほぼ確立された。本年度は睡眠欠乏・複合睡眠障害負荷の影響を検討し、そのメカニズム解析にも取り組む予定である。
1.睡眠の「質」低下による交感神経機能への影響を制御する脳内ネットワークを解析する。複合睡眠障害負荷により影響をうける中枢神経領域(視床下部内側核、延髄縫線核など)の神経活動活性をc-fosの免疫染色により探索する。末梢神経系としては、褐色脂肪組織のUCP-1発現、TH免疫染色への影響から検討する。睡眠の質により影響を受ける脳内ネットワーク系が抽出されれば、それらに対する2023年度に明らかにした前帯状皮質による制御を化学遺伝学的手法(DREDD法)により検討する。2.2023年度に確立した肥満・HFpEFモデルに対する、睡眠欠乏または複合睡眠障害負荷の心臓組織への影響を検討する。8週齢C57BL/6マウスに高脂肪食とL-NAME投与を5または15週間行うが、その間1-5または11-15週いずれかで2種の睡眠障害負荷加え病態への影響を検討する。心機能への影響は心エコー法、心重量、心臓の組織学的解析(コラーゲン量など)、血清ANPなどにより解析する。
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