研究課題
1型糖尿病はインスリンを産生する膵島のβ細胞が自己免疫によって破壊されることで生じる自己免疫性疾患で、重症例では血糖を完全にコントロールすることは未だ困難である。重症低血糖発作による突然死も稀ではないが、その根治療法は移植による膵β細胞の補填に頼っているのが現状である。膵島移植は重症1型糖尿病の治療法として期待されており、本邦で2020年4月から保険診療が開始され、今後一般医療への発展が望まれる。現在の膵島移植は経皮経門脈経路で肝臓内に移植する方法が世界標準であるが、門脈圧亢進や肝膿瘍が発生しても移植膵島を摘出できないという問題がある。そこで低侵襲でアプローチし易い皮下移植の実現が切望されているが、皮下膵島移植は様々な利点を有する反面、移植効率が低いという問題点がある。我々は皮下移植の生着率向上に細胞外マトリックスの補填や血管新生が重要であることや、皮下の低酸素環境が膵島グラフトの生着に影響を与えうることを明らかにしてきた。皮下膵島移植の成功のためには、膵島グラフトの生着に適した皮下環境の至適化が重要であると考えられる。本研究では、皮下酸素濃度の差異が膵島グラフトの生着にどのような影響を及ぼすかを調べ、膵島グラフトの生存率が向上するのに適した皮下酸素濃度を明らかにすることを目的とする。また皮下新生血管誘導基材を皮下に前留置して、皮下酸素濃度を上昇および膵島グラフト生着のための移植部位の至適化の方法を明らかにすることを目的とする。現在、先行研究で用いた酸素供給デバイスや新生血管誘導基材をラット皮下に埋め込んで皮下膵島移植を行い、デバイスの酸素化条件や新生血管誘導基材の有無などが膵島グラフトに与える影響を検証している。酸素供給デバイスの酸素化条件や移植前の新生血管誘導基材の前留置期間の至適化のため、予備検討を行っている。
2: おおむね順調に進展している
先行研究で用いた酸素供給デバイスや新生血管誘導基材をラット皮下に埋め込んで皮下膵島移植を行い、これらが膵島グラフトに与える影響の検証を行っている。これとは別に、新生血管誘導基材を皮下に埋め込んだ後、光学式センサーを用いて皮下酸素濃度測定を行い、新生血管誘導基材の埋め込みが皮下酸素濃度に与える影響を検証している。
新生血管誘導基材を皮下に埋め込むことで皮下に浸出液が溜まり、これが酸素供給デバイスによる皮下の酸素化や光学式センサーを用いた皮下酸素濃度測定に影響を与えるため、安定的な皮下酸素濃度測定のモデル作成に向けた予備検討を行っている。
モデル作成などの予備検討の実験が多く、既存の試薬や実験動物などで予備検討が可能であったため。
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